「日米の情報一体化が抑止力向上に繋がる」 マイケル・グリーン氏に聞く日本の安全保障

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――たとえば、朝鮮半島の有事に際して、日米同盟はどのように機能するのか。

朝鮮半島についてはまた別に考慮する必要がある。朝鮮戦争以来、米国はいろいろな補強や防衛の在り方を日本から知らされた。“第一列島線”についてもそうだ(第一列島線は、主要な半島と、黄海、東シナ海、南シナ海を太平洋から切り離しインド洋への入り口となる線として専門家が定義した。米国のストラテジストの多くは、中国が第一列島線を確保し、その背後の水域への米海軍のアクセスを否定しようとしている、と見ている)。

朝鮮半島について心配なのは、北朝鮮が100隻ほど保有している小型潜水艦を監視するのが非常に難しいということだ。朝鮮半島有事の際、北朝鮮がその小型潜水艦をどう展開するか。その何隻かが米韓のソナー探査装置搭載の海軍の対潜水艦用“ピケット船”によって捉えられると、突然、東シナ海や太平洋で米艦隊にとって危険な存在になる。

米国と同盟国のすべては、それらの潜水艦を最初から共同で追跡する必要がある。米国や韓国が「それらはわれわれの支配領域外にある。日本がそれらを探査する必要がある」というような状況であってはならない。すべての監視・探査システムを一体化する必要がある。

普通の国として扱ってほしい、と思っている

――安倍首相は。日本が英国ないしフランス並みの軍事作戦能力を持ちたいと思っているのだろうか。

核兵器を除けば、安倍首相など日本の保守的リアリスト陣営の政治家はそういう傾向があると思う。いまのように日本を取り巻く脅威が拡大し、日米双方とも財政資源が細っている時には、日本が抑止力の強化を図る必要があるというのは極めて実用的、現実的評価だ。このプラグマティックな見解はイデオロギー以上に安倍首相を駆り立てている。

もう一つ、あまり語られない話がある。自民党内の岸信介、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三と続く反吉田ラインの政治家は米国ともっと平等の地位を求めている。それは米国との同盟関係でリスクをもっと受け入れる用意があり、イギリスのように“普通”の国として扱ってもらいたいということを意味している。それは日本での米軍基地その他の問題とも関係してくる。

安倍首相自身はそういうことをハッキリとは言っていない。しかし、彼の周りの多くの人たちは、日本における米軍基地の能力拡大や柔軟性拡大について安倍首相は米国から直に話を聞いていると読んでいる。

――柔軟性拡大とは何を意味するのか。

日本が米国との“共同”をさらに強化するのに合意すれば、米国が自らの意志で完璧に管理している基地は必要なくなるという意味だ。米国は基地を減らし、日本に一部を返還する。

リチャード・アーミテージやジョセフ・ナイも同じ考えだ。2000年のアーミテージ=ナイ報告には重要なポイントが指摘されている。日本が集団的自衛権を行使するのなら、米国は基地の共同使用を進め、より多くの基地に日本国旗が翻る。日米がもっと自信をもって共同作戦を展開できれば、米軍は今日のような米軍自治の基地は必要でなくなるだろう。

日本の現実主義者たちは、集団的自衛権の行使、米軍基地、米国とのより対等の地位という点を結びつけている。

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