ユーロ圏の金融問題は、まだ解決していない 断続的な金融統合で欧州問題は解決するか

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過去20年にわたる汎欧州規制への道のりには紆余曲折があった。これらの中央監督機構の設立により、欧州連合(EU)は金融統合の新たなステージに進んでいる。しかし、今のところ各機構の責任範囲は非常に限られている。ESMAは格付け会社を直接監督しているが、銀行業以外では各国の機構が依然として日常の監督責任を維持している。

統合志向の欧州委員会当局者がこの着地点をよしとしていないのは明白だ。彼らは会計事務所に3つのESAの評価を依頼し、思慮に富んだ評価書がすでに公表されている。そこで下された判断は、大ざっぱに言えば「今のところはよい」というものだった。その後、欧州委員会は独自の評価を公表している。

報告書では、各ESAは「金融部門に対する信頼回復への貢献を目的とした機能的な組織を迅速に立ち上げ」、市場参加者もその成果におおむね満足している様子がうかがえる、とされている。

3つのESAを統合するべき

だが報告書の筆者らは、現状の権限を拡大し、消費者保護の包括的なアプローチを作り、各国の機構の影響力をさらに弱める必要があると考えている。EU全体の利益を考え、各ESAはその意思を強制するより強い権限を有するべきであり、それぞれの長官は、自らの判断で行動できる裁量を認められるべきだ。各ESAには多くの資金が必要だが、それは金融機関から徴収すればいい。3つのESAを統合し、ブリュッセルなど1カ所にまとめることも検討すべきだ。

基本的な方向性は明確だ。報告書は今後欧州議会に送られ、欧州議会ではこれまでどおりさらなる統合が求められることが予想される。

単一の機構、あるいは緊密に連携した2つないし3つの機構という形はユーロ圏にとって合理的であり、EUの金融市場全体にとっても合理的なのかもしれない。監督機関としてのECBの新しい役割を支援することもできるだろう。だが、はたしてロンドンは足並みをそろえてくれるだろうか。

事実、英国政府は中央機関の機能を弱め、権力を各国の首都に戻すなど正反対の方向に乗り出している。ロンドンの英国内での政治的な立場や、EUの各金融市場における中心的役割を考えると、今後のトラブルは必至だ。

週刊東洋経済2014年9月13日号

ハワード・デイビス 英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス前学長

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英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス前学長。監査委員会、英国産業連盟、イングランド銀行副総裁、金融サービス機構(FSA)初代理事長などを経る。

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