「処刑」だけではない、戦場記者の受難 ソーシャルメディアで戦場報道は変わった

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ヒックス氏はこの事件をツイートしたほか、タイムズは、ヒックス氏が撮影し、両足が切断されたかのようにばらばらの方向を向いて、砂浜にうつぶせになっている少年の遺体の写真を朝刊一面に掲載した。遺体が映った写真を載せるのは、同紙としては極めてまれだ。オンラインにも、同記事は掲載されている。

タイムズは、ヒックス氏が一人称で書いた記事も掲載し、彼は現場の様子をこう描写した。

「電気も水もなく、日が照りつける海岸の桟橋にある掘建て小屋など、ハマスが頻繁に訪れてイスラエルが標的とするような場所には見えない。身長120センチあまりで、夏服を着て、砲撃から逃れようとしていた少年たちも、ハマスの戦士たちの出で立ちとはあまりにほど遠い」

状況を淡々と書いているが、行間に感情を忍び込ませた。

同時に、ヒックス氏は、カメラを下げて海岸に駆け付ける際、カメラが武器と見間違われて、自分も犠牲者になるかと、逡巡したこともにおわせている。

「もし、子供でさえ殺害されてしまうなら、僕を守ってくれるものはあるのだろうか」

NBCのモヒェディン記者は、現場にいたにもかかわらず、ニュース番組に登場せず、別の記者がリポートした。これに先立ち、モヒェディン記者は砲撃の直後、現場の様子や、遺族が駆け付ける様子をフェイスブックやツイッターに次々に投稿したようだ。

NBCは記者をガザ担当から外した

ニューヨーク・タイムズによれば、ツイートの一つには「#恐怖」というハッシュタグも含まれていたのだという。しかし、これらは、すぐに削除された。

直後、NBCがモヒェディン氏をガザ担当から突然外し、他の記者を派遣したことが明るみに出た。これを報じたのは、新興のニュースサイト「ジ・インターセプト」の元英ガーディアン記者、グレン・グリーンウォルド氏だ。同氏は昨年、元米中央情報局(CIA)従業員の告発を受け、米情報当局が市民や外国人の通信を一網打尽に傍受しているという記事を書き、米国のピュリッツアー賞を受賞。ジ・インターセプトの創立メンバーとなるため、昨年ガーディアンを退職した。

グリーンウォルド氏によると、NBC関係者はモヒェディン氏の「配置換え」について「安全上の懸念から」と説明。しかし、グリーンウォルド氏は、独立の米報道機関「デモクラシー・ナウ」に出演し、モヒェディン記者が「ガザ住民の、人間としての面を世界に知らせた途端に」、ガザ担当から外すという行為は、「NBCの信頼性にとっては不名誉なことにみえる」と指摘した。

フェイスブックやツイッターでもよく知られているモヒェディン氏がガザからいなくなったことに対し、NBCに対する批判の声が上がり、数日内に、同氏はガザに復帰した。

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