「女性専用車両」は、男性差別か? 優先席と同様、専用車両は必要だ

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優先席と同じように、女性専用車両を認めるべき

それもあって、満員電車の車内アナウンスで「痴漢などの迷惑行為を見かけた場合は……」などということになるのですが、痴漢は「迷惑行為」ではなく、女性の人格を否定する「犯罪」です。なぜこんな重篤な人権侵害に、かくも無神経な男性がいるのでしょう。

「欲望」の成立自体が戦後のことで、「いたずら」程度の認識しかないからなのでしょうか? 強制わいせつの認知件数は、2012年に7263件。毎朝の痴漢が日本中で20件しかないわけがないですよね?

痴漢の冤罪事件があるのは確かです。両手を挙げた状態にして、疑いをかけられないようにする男性がたくさんいるのも事実で、男性の乗客の中で、痴漢をしている比率というのは、そうとう低いでしょう。でも、だとすればなおのこと、そのような可能性のない空間を確保するのは、必要不可欠な手段ではないでしょうか。

セクハラを含めて、性犯罪の定義権は、一義的には被害者にあります。つまり何をセクハラと考えるか、何を痴漢と感じるかは、被害者に最大の決定権があるのです。同じ行為を受けたとしても、好きな人なら「犯罪」とならないわけで、犯罪行為を外形的に定義するのが難しいからです。しかしそのことが、同様の行為を誰もが試してみてよい、ということを意味しないのは当然です。

私のジェンダー論の講義を受ける女子学生から、女子高時代に痴漢があまりに頻発するので、近くの女子高とも連携して、鉄道会社に女性専用車両の設置を求めたものの、そのこと自体が新聞などで話題になって、その高校や制服が好奇の目にさらされるようになり、結局、対策が実現しなかった、という話も聞きました。

「婦人専用車両」が導入された100年前とは異なり、今、女性と男性は、電車、職場、学校を共有しています。だからこそ、少なくとも優先席と同程度には、女性専用車両の必要性が認められるべきだと思うのです。下の表に見るように、実は量的にも、1編成の電車の総座席数に占める優先席の比率は、女性専用車両の座席数の比率とほぼ同じ。お年寄りに席を譲るのと同じ気持ちで、女性専用車両を認めるべきではないでしょうか。

出所:国土交通省資料(リンク先PDF)を元に、筆者作成

男性のみなさん、毎朝通勤するたびに、体の特定の部位を触られるという恐怖感を想像してみてください。それを防ぐための措置を「差別」と呼ぶのですか?  私は中学生の頃に電車で一度だけ痴漢に遭ったことがあるのですが、本当に不愉快な記憶です。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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