“米国製理系エリート”のキャリアパスとは 「グローバル人材」たちの苦労と葛藤(1)

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柔道と旅行が好きな博士学生は、
シンガポールの大学教員に

橋本道尚さん(Assistant Professor, Singapore University of Technology and Design) 18歳で松坂投手に刺激されて渡米したはずが、ハーバードの博士学生となり、シンガポールの大学教員に

僕がボストンに着いて1週間ほどした頃、MITやハーバードにいる日本人学生が10人ほど集まって中華街で夕食を食べるというので、参加させてもらった。

その会をオーガナイズしていたのが、橋本道尚さんという、当時、ハーバード大学で化学を専攻する博士課程3年目の人だった。僕の著書の第9章で書いた、コスタリカとニカラグアへのバックパック旅行に一緒に行った友人だ。

彼は柔和そうな顔をしていて、外見どおり柔和な人だったのだが、また無類のダジャレ好きでもあった。たとえばこんな具合である。

ごくありふれたパーティの案内メールの末尾に「奮って五酸化バナジウムしてください」と書かれていた。また、鍋の誘いメールの署名が「鍋島 翔」になっていた。

人が集まって会話が始まると、彼はつねに何か面白いことを言ってやろうと機会をうかがう。つまりは人を楽しませることが好きなのだ(本人曰く、「自分の持つボキャブラリーや知性に対する挑戦をしている」らしいが)。

だが、彼は誰かの悪口やうわさ話で笑いを取ることは決してしなかった。輪の中にいる誰かひとりでも不快になるような笑いは決して好まなかった。つねにくだらなさの極地を行く冗談を好むのは、彼の優しさの現れなのだと思う。

※ちなみに、彼は冗談について一家言を持っていて、彼が言うのは「駄洒落」ではなく「言葉遊び」なのだと主張している。誰の役に立つ話でもないのでここで紹介することはしないが、興味のある人は彼のブログを参照されたい

彼がアメリカに留学をしたのには、ちょっとしたストーリーがある。彼は中学・高校の頃はひたすら柔道に打ち込んでいた。目標は全国大会に出ることだったが、その夢はかなわなかった。医学部に進む人が多い高校だったから、彼も同様になんとなく医学部の受験を考えていたのだが、虚無感のただ中では受験勉強も手につかなかった。そんな高校3年の夏、ぼーっと見ていた甲子園の野球中継のテレビの中では、松坂大輔が大活躍をしていた。彼は準決勝で大逆転劇を演出し、決勝でノーヒットノーランをやってのけた。

橋本さんは松坂と同い年だった。後に「松坂世代」と呼ばれるようになる学年である。彼は、松坂が何かのインタビューで「将来はメジャーリーグに行って活躍したい」と自信満々に答えるのを見て、同じ「世代」にいるのに不完全燃焼をしている自分がなんだかふがいなく思えた。そのとき、彼の頭に冗談のような考えが浮かんだ。

「松坂よりも先にメジャーリーグに入ってやろう」

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