男尊女卑がまかり通った時代を再現
日本でも映画やTVドラマでの喫煙シーンが話題になることが多いが、アメリカでは日本以上に喫煙に対する世間の目や規制は厳しい。映画の喫煙シーンは若者が見ることを禁じるレーティングの対象となるし、たばこを吸っていることが時代考証的には正しいシチュエーションでも、不自然なまでにたばこは登場しない例が急増している。
米ウォルト・ディズニーは、自社映画から喫煙シーンを排除する方針を打ち出しており、チェーンスモーカーとして知られた創始者ウォルト・ディズニーが登場する映画でも喫煙シーンはカットされているという徹底ぶりだ。
そうした世間の風潮を逆手にとるかのように、毎回のように紫煙が画面に立ち込めるドラマが、1960年代の広告業界を舞台にした『マッドメン』(2007年~)だ。男性も女性もたばこを吸い、男性は仕事中に強い酒を飲み、職場では男尊女卑がまかり通るといった、時代考証を忠実に再現していることがウリのひとつである本作は、ある種の“過激さ”を存分に発揮している意欲作である。第11回は、数々の賞を総なめにしてきた、秀作の誉れ高い人間ドラマ『マッドメン』を紹介しよう。
美人妻と子どもがいながら、愛人の元へ
時代の先端を行く広告業界の生え抜き広告マンのドン・ドレイパー(ジョン・ハム)は、この業界の中心地であるマディソン通りにある大手スターリング・クーパー社のクリエーティブ・ディレクター。大手たばこ会社ラッキーストライクとのミーティングを控えて、世間ではたばこの害が取りざたされ、政府の広告規制が強化されており、頭を悩ませていた。私生活では、元モデルの美しい妻ベティ(ジャニュアリー・ジョーンズ)と2人の子どもに恵まれ、幸せな家庭に不満はない。だが、つねに女性の影が絶えず、今日も温かい家庭ではなく愛人の元へ足が向かうのだった。
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