富士フイルム、新ビジネス請負人の上司論 富士フイルムのプロデューサー、戸田雄三氏に聞く(上)

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 日本に今ほど、新しい事業や商品が求められている時代はない。ただし、多くの日本の企業は、縦割り構造が強く、異分子が混ざり合うチャンスが少ないのが現状だ。そんな状況にもめげす、大企業の中でイノベーションを起こしてきた“プロデューサー”たちにインタビューし、その思考法や生き方などを学ぶ。
富士フイルムで新ビジネスを次々と生み出す、戸田雄三取締役。

デジタルカメラの普及によって写真フィルムの売り上げが減少し、本業喪失の危機に直面した富士フイルム。2000年に就任した古森重隆社長(現・富士フイルムホールディングス会長・CEO)の下で経営改革が行われ、化粧品、医薬品、再生医療と、ライフサイエンス分野に進出し業態転換を図った。その中心的役割を果たしてきたのが戸田雄三富士フイルム取締役常務執行役員だ。新規事業を立ち上げ、育てていくのに必要なこととは?

ヒーローであることを自身に課す

三宅:化粧品、医薬品、再生医療と、新しい分野の事業が力強く育っています。一つひとつが難しいチャレンジだったと思いますが、戸田さん自身はどう感じていましたか?

戸田新しいことの難しさより、新しいことの楽しさのほうが大きいですね。「新しさ」は何においてもそうかもしれないけれど、まったく新しい突飛な世界ではないのです。自分たちが今まで持っていたタレントやリソースを世の中で使ってきたのが写真フィルムという現業とすると、それを違うステージで使うのが新規事業です。そう考えると楽しいよね。もちろんステージを変えることで、今まで持っていたものがそのままでは通用しないから、それなりの苦労はあるけれど。

三宅われわれはコンサルティングでいろいろな大企業の方とお付き合いしていますが、新しいチャレンジを「楽しい」と言い切れる人はなかなかいません。ほとんどの方は(やりたいと思っても)「難しいね」「できないよ」と言う人が多いのです。戸田さんはなぜ楽しいと感じられたのでしょうか?

戸田最初から楽しいとは思っていないかもしれないけれど、やってみてよかったなと思ったんですよ。先日、あるところでリーダーの役割について講演をしました。最近のリーダーは部下との軋轢を避ける傾向があるのです。パワハラという言葉もあるから難しいのですけど、思い切ってガンガン仕事を進めたいときは、部下の気持ちをすべてくんでいるわけにはいかない。あるところは見切らないといけないのです。でも一方では、チームとしてみんなに心地よく仕事をしてもらいたい。

三宅その2つの間でどうするかですね。

戸田部下と仲良しで、あまりグリグリやらない、やさしい上司だと、部下は毎日幸せです。しかし、5年後、10年後に振り返ったときに、「住み心地はよかったけど、仕事は面白くなかった」というケースがある。それに対して、「日々きつくて大変だったけど、充実していたなあ」と思えるほうが、僕はいいと思うのです。

三宅そうすると戸田さんはいつも部下にグリグリやってるのですか?(笑)

戸田そんなことはないけれど、部下が10の実力を持っていたら、チャレンジとして10以上の仕事を与えないといけないと思っています。部下に10以上の仕事を与えるということは、自分にはもっと仕事を与えなきゃいけない。そういう大変さはありますね。僕はいつも自分をヒーローとして置いておきたいと思っているから(笑)。

三宅ヒーローといいますと?

戸田人からヒーローと思ってもらうのは大変だけど、自分が自分にヒーローであることを課しているのですよ。そうすると楽しいじゃない。さらに部下にも同じことを要求するから、僕は部下から怖い人だと言われるのです。でも、もう少し深く考えると、怖い人ではなくて、うるさいだけなんですよ。実力を見て、その上を期待しているのです。だから、なかなか満足しないのです。

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