出版不況と戦う、角川の未来型メディア戦略

KADOKAWA取締役相談役 佐藤辰男(上)

 日本に今ほど、新しい事業や商品が求められている時代はない。ただし、多くの日本の企業は、縦割り構造が強く、異分子が混ざり合うチャンスが少ないのが現状だ。そんな状況にもめげす、大企業の中でイノベーションを起こしてきた“プロデューサー”たちにインタビューし、その思考法や生き方などを学ぶ。

出版市場が長期縮小を続ける中、角川グループホールディングスは2013年10月、角川書店、アスキー・メディアワークス、エンターブレインなど子会社9社を吸収合併し、KADOKAWAとして新たなスタートを切った。業績不振に苦しむ多くの出版社とは一線を画し、売り上げ、利益とも順調に伸ばしている。そこにはどんな挑戦があったのか?

「いずれおたくもダメになる」

三宅:メディアコンテンツ業界では、日本だけではなく世界でも大きな変革が起きています。その中でKADOKAWAは着実に業績を伸ばしていますが、どのような工夫やトライをされているのでしょうか?

佐藤:2008年に角川グループホールディングスの社長になったとき、初めてIRでヨーロッパに行きました。「角川グループは日本の出版業界が右肩下がりの中で、唯一成長しています」と胸を張って言ったら、向こうの投資家から「右肩下がりの業界にいるということは、いずれおたくもダメになるということですね」と挑発されました。これはショックでしたね。グローバルな視点では、そういう見方をされるのかと思いました。厳しい環境下で頑張っているだけではダメなんだと痛切に感じました。

三宅:KADOKAWAは以前から出版だけに頼らない体質に変革されてきていますね。

佐藤:現在の会長の角川歴彦が社長に戻った1993年から、メガコンテンツ・プロバイダー、メガソフトウエア・パブリッシャーを標榜し、出版だけではない体質を確立してきました。ヨーロッパに行って、その考えをもっと発展させるべきだと思ったのです。そして昨年10月に子会社を吸収合併してワンカンパニーになった際、3つの挑戦を掲げました。

ひとつ目は、「出版社からIP企業体へ」ということです。IPはインテレクチュアルプロパティ、つまりコンテンツのことです。出版はもちろん重要な柱となる事業ですが、出版社体質から転換し、映画、アニメ、ゲーム、マーチャンダイジング、ネットサービスなどを含めた事業ポートフォリオを持つ企業体に変わることを目指しています。そして、これからは多メディア展開の源泉を出版だけでなく、映像やゲーム、ネットなど多種多様なメディアから創出し大きなIPを育て、キャラクター商品の展開も拡大させていきます。

三宅:あとふたつはどんなコンセプトですか?

佐藤:「アナログからデジタルへ」と「ローカルからグローバルへ」です。ただ、肝となるのは最初の「IP企業体へ」です。コンテンツを軸にした事業ポートフォリオを確立していこうとしています。これは意外と大変なことです。今まではまず出版があり、その中でKADOKAWAはライトノベル、コミック、文芸を得意としています。

次が映画事業です。これは1976年の「犬神家の一族」から始まりました。1945年に創業したKADOKAWAの歴史の中では、76年からの第2期と、97年からの第5期が映画の時代になっています。両者の違いは第2期が出版社による映画事業であるのに対して、第5期は、大映など、いくつかの映画会社を買収し、一気通貫の映画事業を展開しました。企画、制作に始まり、スタジオやシネコンの運営も行いましたが、現実的には映画を事業ポートフォリオに組み込んだことで、とても苦しんだ時期があったのです。

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