富士フイルム、新ビジネス請負人の上司論 富士フイルムのプロデューサー、戸田雄三氏に聞く(上)

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全体像でモノを見る力

三宅絵具に例えると、コラーゲンは色が混ざらないようにする役割を果たしているわけですね。

戸田しかも、写真フィルムは写真を撮った後に現像します。現像、定着、水洗など、ここにもいくつもの工程があります。こうした複雑なウエットケミカルリアクションの場では、コラーゲンがないとピュアな色は出せません。写真フィルムには百数十年の歴史がありますが、コラーゲンを使うことによって工業製品として市民権を得たのです。

そのコラーゲンは牛の骨から取っていました。フィルム産業を支えてきたのは牛の骨なのです。富士フイルムは、良質なコラーゲンを作る工場を持っていました。というのも、コラーゲンの質が変わるとフィルムの感度が変わってしまうので、不純物が混ざらないようにしていたのです。写真フィルムはそのぐらい微妙な製品です。富士フイルムはそういうものをずっと製造してきたわけです。

三宅その複雑で微妙なものをマネージする力がRCPの研究にも役立ったのですね。戸田さんは研究所からではなく、製造、開発部門を経て研究所長になるという、珍しい経歴をお持ちですが、このことはイノベーションを成し遂げるのに役立ちましたか?

戸田役立っていますね。僕みたいな性格の人間は、最初に製造部門に入ってよかったと思います。

三宅僕みたいな性格とは?(笑)

戸田人にゴールを決めてほしくない。ゴールは自分で決めたいのです。僕らが入社した頃は、研究が分業になった時代でした。分業になると全体感でモノを見る力がなくなってしまうのです。今、再生医療で注目されている京都大学の山中伸弥教授がすごいのは、ビッグチームの一部分として動いているのではなく、全体が見渡せることなのですよ。

今の研究者の多くは役割を決められていて、ベルトコンベアの前に座って技術の一部をちょこちょこやっている。これでは大きな発明はできません。僕は分業化された研究所ではなく、全体が見られる製造から入った。全体感でモノを見る力が養われました。それがよかったと思っています。

(構成:仲宇佐ゆり、撮影:大澤誠)

※ 続きは3月19日(水)に掲載します

三宅 孝之 ドリームインキュベータ執行役員

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みやけ たかゆき

京都大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了(工学修士)。経済産業省、A.T. カーニー株式会社を経てDIに参加。経済産業省では、ベンチャービジネスの制度設計、国際エネルギー政策立案に深く関わった他、情報通信、貿易、環境リサイクル、エネルギー、消費者取引、技術政策など幅広い政策立案の省内統括、法令策定に従事。DIでは、産業プロデュース事業を統括し、環境エネルギー、まちづくり、医療などを始めとする様々な新しいフィールドの戦略策定及びプロデュースを実施。また、個別プロジェクトにおいても、メーカー、IT/通信、金融、エンタメ、流通、サービスなど幅広いクライアントに対して、新規事業立案・実行支援、マーケティング戦略、マネジメント体制構築など成長を主とするテーマに関わっている。

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