価値観を買う。エシカルの可能性と課題

モノの裏側にあるテーマを考える買い物とは?

 モノがあふれている社会で、売り手はいかにしてモノを売るか。そして、モノに囲まれている私たち買い手が、モノを買う理由とは何なのか。マザーハウス副社長の山崎大祐が、これからの時代の「モノの買い方、売り方」を考えていく。

 

自分たちの身の回りのモノを知らない私たち

「皆さんが身に付けているモノがどこから来て、誰が作ったか、お答えできる方、いらっしゃいますか?」

これは、私が講演したときによく皆さんに質問をさせていただくことです。残念ながら、ほとんど手が挙がることはありません。 私たちはこれだけモノと情報にあふれた世界に生きているのですが、身の回りにあるモノに関しての情報を、ほとんど持っていないのが実情です。誰がどういう環境で作ったモノなのか、どういう国で作られ、どこの倉庫に入って、私たちが最終的に買ったモノなのか。実は、私たちは知らないのです。

2013年4月、バングラデシュで悲劇が起こりました。ダッカ近郊のアパレル工場が崩壊、1000人以上の方が倒壊した工場の下敷きとなって亡くなったのです。結果として、この工場は、欧米向けのSPA(製造小売りブランド)向けのアパレル製造が主で、日本向けの製品は作っていませんでしたが、ひとつ間違えば、多くの犠牲者を出したこの工場のアパレルを、私たちも買っていたかもしれません。

ここ数年、途上国でもコンプライアンス(法令順守)の考え方が広がり、工場環境もよくなったところが増えたのも事実です。しかしながら、一方でやはり私たちはモノの買い手として、自分たちが身に付けているモノの工場がどんなところなのか、ほとんど知らないという現実は、あまり変わっていません。

私も、この仕事を始めてからさまざまな工場を見てきましたが、ある工場で見た光景を今でもよく覚えています。それはバングラデシュのとある食品工場なのですが、グローバルスタンダードの品質基準の証明書が入口に飾られていたにもかかわらず、実際にはチェックなく工場に入ることができ、床には原材料や製品が散乱していました。誰でも容易に衛生上の問題を起こせてしまうような環境でした。

それでも、そんな商品も最後は私たちがお店で見るような、きれいなパッケージに入れられ、整然と並べられている。私が感じたリスクなどみじんも感じさせない最終製品になるわけです。もちろん、この商品はバングラデシュ国内向けでしょうから、私たちの口に入ってくることはありません。

ここで私が感じたのは、作っている人や工程が一体どういうものかを知らないということは、買い手としてとても大きなリスクなのではないか?ということです。実は私たちが口にしているモノ、身に付けているモノ、すべてについて、リアルな情報はほぼゼロに近いと思いませんか?

次ページエシカルは注目されたが…
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