「考える」を買う。高橋理子株式会社

あえて不親切な商品が壊す「モノ」の固定観念とは

 モノがあふれている社会で、売り手はいかにしてモノを売るか。そして、モノに囲まれている私たち買い手が、モノを買う理由とは何なのか。マザーハウス副社長の山崎大祐が、これからの時代の「モノの買い方、売り方」を考えていく。

 

わかりにくい商品名に込められた意味

 「100×35」

これは手ぬぐいにつけられた商品名です。100センチメートル×35センチメートルの布だから、「100×35」という商品名。もちろんただの布ではなく、そこには円と直線のみで構成した洗練された文様が、注染という伝統技法で染め上げられています。

しかし、普通に考えれば「○○染め」とか、少なくとも「○○手ぬぐい」くらいの商品名をつけるものです。しかし、その商品には、わかりやすい名称だけでなく、使い方などもいっさい記載されていません。

 ホームページのこの商品の説明を見ると、「100×35は手ぬぐいの商品名であり、サイズを表している。必要最低限に織られた生地を、横方向に切っただけで道具として存在する手ぬぐい。使い手次第で使い道は無限に広がる。機能を限定せず、使い手に考える余地を与える、日本ならではプロダクト」とあります。

「100×35」

使い手に考える余地を与える。今日のテーマは「考える」を買うです。

この「100×35」を制作・販売している高橋理子(たかはしひろこ)株式会社・代表取締役の中村裕介さんによれば、高橋理子株式会社とは、アーティスト高橋理子さんのマネジメントをする会社であり、彼女のクリエーションを支えながら、それを社会と結ぶきっかけとして、さまざまな商品や考え方を発信している会社です。高橋さんの活動は多岐にわたりますが、2007年、ミスユニバース日本代表の森理世さんが、世界大会の衣装として高橋理子さんがデザインした着物を身に着けて、世界一になったことが大きな話題になったことを覚えている方もいるかもしれません。

モノがなぜその形なのか、考えたことがありますか?

そもそも、これだけモノがあふれた時代に、モノがすべき役割とは何か?

高橋理子さんのアクションには明確なメッセージがあります。

「人々の日常に存在する固定観念を覆し、思いを巡らせるきっかけを生み出す」

高橋理子さんの活動の目的のひとつに挙げられているものです。

冒頭に紹介した「100×35」も、この目的がベースとなっている、考えるきっかけを生み出す商品と言えるでしょう。商品名を「手ぬぐい」としてしまえば、手を拭くという機能が明確になり、すぐに使い方をイメージできます。さらにいえば、図柄つきで取り扱い説明書をきちんとつけてあげれば、もっと親切かもしれません。しかし、そうなることで私たちは「買い手」として思考停止に陥ってしまう可能性があります。

モノは使うものであって、考えるためのツールではない。

これが一般的なモノに対する感覚です。私たちの身の回りのものは完璧な形状で与えられて、それが何であるのかということについて、「買い手」である私たちが何かを考えることはありません。モノがいったいどうして生まれて、どうしてこの形でなければならないのか、考える機会はないのです。まさにモノに対する思い込みや固定観念に囲まれて生きているのです。

ひとつ間違えると、この商品は、あえて使い方を説明しない不親切な商品にも見えます。「買い手」の思考レベルによって、そのプロダクトが価値あるものになるのか、ならないのかが決められてしまう難しさがあります。しかし、本来は使い手の考え方ひとつで機能が無限に広がる手ぬぐいが、その「手ぬぐい」という名称によって、手を拭く以外の機能を考えることに至らないことが、昨今では多いと感じるのです。

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