優しくしてほしい人が冷たい場合の対処法 「思いやり派」よ、上から裁くな!

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しかし、あなたが提示している今回の問題は、その他人が「夫」であって、赤の他人ではないということ。「だから」あなたは、いっそう期待してしまう。そして、これからの長い人生を思って、「こんな冷酷な人とやっていけるだろうか」と真剣に考えてしまう。こうして、あなたは個々のご主人の行為ではなく、その「奥にあるもの」を見ようとする。個々のご主人の行為をご主人の全人格的な表出として見てしまう。すなわち、個々の行為をもって、あなたはご主人の全人格をいつも裁いてしまうわけです。

こういう構造が固定してしまうと、一般に、相手はしだいにますますあなたを助けるのがイヤになります。あなたの「助けて!」という叫び声、あなたの「誰も助けてくれない!」という苦情を、素直に受け止められなくなります。なぜなら、このすべてが自分に対する「裁き」に聞こえてしまうからです。

言葉でわかり合える関係を求めているのでは?

あなたではなくて、ご主人の味方になっているようで心苦しいのですが、ご主人は根っからのエゴイスト(もう1度言いますと、あなたが苦しんでいるときに全然、助けてはくれないが、自分が苦しいときにはあなたが自分を助けることだけは期待している)でもないようで、夫婦の間でもなるべくツーカーでわかる関係ではなく、「言葉」でわかりあう関係を求めているように思えます。

とすると、よく言われることですが、相手(たとえ夫婦であっても)に不満な場合、自分は「正しい」のだからと1ミリも変えずに、相手を力ずくで変えようとしても、それはドダイ無理な話というもの。まず、あなた自身が変わることです。しかも、それはたったひとつのことでいいのです。それは、相手を高みから「裁く」姿勢を変えること。ご主人に何かを期待するときには、「自分は絶対正しい、相手は絶対間違っている」という思い込みを無理にでも拭い去ること。2人の振る舞い方、考え方の違いは対等な「文化の違い」だと思って、「わかり合うのはどうしたらいいのか」と、ゆっくりかつ真剣に考えていけばいいのではないか、と思います。

今回の参考文献としては、ぜひ私の体験談に基づいた『異文化夫婦』(角川文庫)を読んでください。

中島 義道 哲学者

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なかじま よしみち / Yoshimichi Nakajima

電気通信大学元教授・哲学塾カント主宰
1946年福岡県生まれ。77年東京大学大学院人文科学研究科哲学専攻修士課程修了。83年ウィーン大学基礎総合学部哲学科修了、哲学博士。専門は時間論、自我論。2009年電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科教授を退官。現在は「哲学塾 カント」を主宰し、延べ650人が参加した。著書は『働くことがイヤな人のための本』『私の嫌いな10の人びと』『人生に生きる価値はない』(以上、新潮文庫)など約60冊を数える。

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