なぜ”戦う哲学者”は子どもを持ったのか 軽蔑の裏返しで抱いた「通常人」へのあこがれ

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 獣や魚がどうなのかは知らない。だが古今東西、老若男女、人が悩み、迷うのは確か。“戦う哲学者”中島義道氏が開く人生相談道場に“同情”はない。ここに あるのは、感受性においてつねにマイノリティに属してきた中島氏が、壮絶な人生経験を通じて得た、ごまかしも容赦もない「ほんとうのこと」のみ。“みん な”の生きている無難な世界とは違う哲学の世界からの助言に、開眼するも、絶望するも、あなた次第である。

※中島義道氏への人生相談はこちらから

【VOL.7
 もうすぐ30代後半にさしかかる独身の女です。
 中島先生に感化を受けたわけではありませんが、人生は本質的にむなしい、どうせ死んでしまうのだからという思いを持ちながら、今まで生きてきました。
 そんな私を親が理解するわけもなく(理解を得ようと努力したこともありませんが)、もういい年齢であるのだから結婚せよ、子どもを持てという激しいプレッシャーをかけてきます。
 そうした状況がストレスで、ますます生きづらい状況にあり、戦っているところでありますが、結婚はともかく、子どもを持つことにどうしても希望を見いだせません。
 というのもこの世の害悪はすべて人から生まれるもので、つまりは子どもがいなければ害悪も生まれないと思うからです。究極の世界平和は人類滅亡であるとも思います。
 また、自分自身がこの世に生まれてきたことを、よしとしているのかどうかもわからない私が、子どもを持ったとしても、子どもに対し「こんなむなしい世界に生み落としてしまって申し訳ない」という気持ちにしかならないのではないかと思います。
 一方で、こうした虚無的な人生観、厭世感が子どもを持つことで何か変わるのだろうか、というささやかな期待のようなものを抱いていることも否定できません。
 先生ご自身は奥様の希望によって子どもを持ち、喜びを感じたと著作で述べられていますが、女の私から見ると、正直なところ、それは自分自身が子育てにさほどかかわってこられなかったからこそ抱くことができた感想なのではないか、という思いを抱いてしまいます。
 中島先生は人が子をなすことについて、どのようなお考えをお持ちでしょうか。
 また、私のように人生に対する虚無感を抱き続けている女が、母親として子どもを持ち、育てるとしたら、そのことについて、どのようにお考えになりますか。

今回のご相談は、今までとはずいぶん趣が違いますね。でも、私に対してよくある(大部分が批判的な)質問のひとつです。すなわち、「こんなに世界は、人生は、無意味でむなしいのに、先生はなぜ子どもをつくったのか?」という問いですね。

そして、相談者が書いている「この世の害悪はすべて人から生まれるもので、つまりは子どもがいなければ害悪も生まれない……。究極の世界平和は人類滅亡である」という意見も、実は割と多いものです。私にとって、今回のご相談はとても「ありふれた」ものであって、実はとても答えやすい。

次ページ今回の問題は主に4つ
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