武田薬品、巨額買収承認後に待ち構える不安 臨時株主総会で欧大手シャイアー買収を可決

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ここで出てくるのが、有利子負債圧縮のためのウルトラC、資産売却だ。武田は臨時総会用の資料の中で初めて100億ドルの資産売却を検討していることを明らかにした。

武田は「買収決定後の環境変化で新たに検討を始めたものではない」というが、100億ドルの資産売却があって初めて、有利子負債/EBITDA倍率を健全な2倍以内に戻せるという試算結果を出している。これを踏まえると、シャイアー買収に伴う無形資産の膨脹とその償却負担が当初考えていたよりも拡大したため、100億ドルの資産売却を迫られたとみてもおかしくない。

買収で新たに加わる推定6000億円~1兆円の「のれん」は、武田が採用する国際会計基準上、毎年償却費を計上する必要はない。計画していた見合いの収益が見込めなくなった時点で償却する。突然巨額減損の計上を迫られ、結果的に会社が消滅の危機に追い込まれた例は、東芝をはじめ枚挙にいとまがない。

シャイアーの研究開発力への疑念

武田はシャイアーが持つ既存製品や開発中の製品について保守的な見通しを立てているため、減損の可能性は小さいと強調してきた。しかし統合新会社の狭義ののれんは4~4.4兆円、無形資産は6.3~6.6兆円、合計11兆円近くに達すると推測される。その巨額減損のリスクは、武田の自己資本が推定で6兆円強であることを考えればいかにも大きい。

究極の問題は、こうしたリスクを含め、シャイアーが7兆円という買収額に見合う価値を本当に持っているのかどうかだ。武田に買収される前のシャイアーの株価が現在の7割弱、武田の買収価格の40%相当低い水準だったことを再度思い返してみても無駄ではない。

シャイアーは合併に合併を重ねて急成長してきた。「世界最高」と呼ばれるシャイアーの希少疾患分野の製品は、たしかに武田との重複が小さく、補完関係が成り立つかもしれない。しかし、シャイアーの収益柱である血友病などが新薬や新技術に激しく追い上げられているのも事実。後期の開発パイプラインも、数こそ多いが、既存薬の寿命を延長させる適用拡大などが多く、大型薬へと期待される薬も少ない。前期パイプラインは武田以上に不足し、シャイアーの研究開発力を評価する専門家の声は必ずしも高くないのが真相だ。

ウエバー社長はこうした厳しい外部の評価に、これから実績でもって応えていかなければならない。それが実現できない場合、「自分が全面的に責任を負う」と言い切った以上、退路はない。

グローバルプレイヤーへ、形だけの登竜門はくぐり抜けた新生武田。船出は華々しいが、その先に荒い航路が待ち構えている。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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