武田薬品の6.8兆円買収に潜む一抹の不安 中外製薬の血友病新薬がシャイアーを脅かす

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国内最大手でも新薬を生み出せなければ没落する(写真:Science Photo Library/アフロ、デザイン:熊谷 直美)

6.8兆円――。国内製薬首位の武田薬品工業がアイルランドの製薬大手シャイアーを飲み込む。日本企業のM&A(企業の合併・買収)では過去最大規模の買収額を投じるのだ。5月8日に基本合意に達し、今後は両社の臨時株主総会で承認されることを条件に武田はシャイアーを吸収合併する。

直近決算における武田の売上高は1兆7705億円(2018年3月期)、シャイアーは1兆6980億円(2017年12月期)。2社を合算すれば、武田グループの売上高は約3兆4000億円となり、世界トップ10のメガファーマ(巨大製薬会社)へ仲間入りを果たす。

6月11日発売の『週刊東洋経済』は、「製薬大再編」を特集。武田のシャイアー買収を契機に勃発する日本の製薬業界の再編などを取り上げている。

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いま世界の血友病治療薬分野ではシャイアーが45%のシェアを握りダントツだ。血友病とは出血が止まらない、あるいは止まりにくくなる病気。重症患者だと出血が年に30回も起こり、内部出血で関節が腫れ上がる関節出血などに悩まされる。頭蓋骨や頸部(首)、せき髄などに出血が起きると呼吸困難、マヒなど命にも関わりかねない。

シャイアーの血友病治療薬の旗艦商品が年間売り上げ約3000億円、シェア35%を誇るトップブランド「アドベイド」である。武田がシャイアーを傘下に収めれば、血友病治療薬の分野でその強みを謳歌できると見込んでいるだろう。

だが、そこには一抹の不安がある。スイスのロシュ傘下である中外製薬が創製した新薬「ヘムライブラ」が血友病治療薬の勢力図を一変させる可能性が出てきている。

「2000億円は最低線」

すでに米国では昨年11月に、欧州では今年2月に承認されており、5月22日にいよいよ国内発売となった。国内は中外製薬が、大市場の米国・欧州など海外では連結売上高で製薬業界世界首位の親会社ロシュがグループの力を挙げて販売する。日本投入をもって世界販売展開の体制は整ったといえる。

この薬のピーク売り上げ予想は2000億円以上というのが、株式市場のコンセンサスだ。効果、利便性、そのほかさまざまな点で、「ヘムライブラ」の商品力は既存薬を大きく上回る。中外製薬は自信を深めており、「2000億円は最低線、血友病治療薬分野のシェアの4割、5割は狙う」という声が社内からは出る。

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