武田薬品、巨額買収承認後に待ち構える不安 臨時株主総会で欧大手シャイアー買収を可決

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「考える会」にも油断はあった。当初、2019年2月とされていた臨時株主総会は2カ月前倒しされた。同会をサポートする三島茂氏(三島ファーマアセット・リサーチ社長)は「欧州の規制当局の承認が出るのを早めるため、シャイアーの大事な潰瘍性大腸炎の開発薬の売却をするのは武田経営陣の暴挙だ」と憤る。臨時株主総会を12月に前倒しするのが狙いで、大事な虎の子を放棄しなくても欧州の承認は1~2か月後には得られたはずだというのだ。

さらに、2019年2月の株主総会となれば、シャイアーが4割のシェアを持ち、現在同社の屋台骨を支える血友病薬を脅かす有力対抗馬である、ロシュ=中外製薬の画期的新薬「ヘムライブラ」の販売拡大の数字が決算で明らかになるのを怖れた、というのが三島氏の推測だ。

12月に都内で記者会見した「武田薬品の将来を考える会」の武田和久氏(撮影:梅谷修秀司)

もちろん武田経営陣は一笑に付すだろうが、武田の潰瘍性大腸炎のブロックバスター(年商1000億円以上の大型薬)「エンティビオ」との販売シナジーが期待できるシャイアーの有力開発薬の売却方針をなぜこのタイミングで決めたのか。武田から説得力ある説明が聞こえてこないのも確かだ。

消極的理由で武田案に「賛成」

いずれにせよ、「考える会」にしてみれば、一般株主へ反対論を広げる十分な時間がなかった。ただ、総会出席者の声を聞くと、国内個人株主の間では武田経営陣が推す今回の巨額買収が強い支持を得ていると言えないのも事実だ。

九州からフェリーを乗り継いで来た60歳代の男性株主は、賛成票を入れるつもりだと明言。その理由は「このまま座して待っていても武田の将来はない」。一方で「ウエバーの言っていることはよくわからない。身の丈を超えている、という反対派の言うこともよくわかる」と付け加える。

賛成票といっても、「武田の閉塞感をなんとか打ち破ってもらいたい」「ほかに残された手はない」というような、消極的な理由も少なくない。「考える会」の懸念が完全否定されての賛成票がどの程度あるか。武田経営陣もこの点を十分理解しておかないと、手痛いしっぺ返しを食うことになりかねない。

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