ホームレスが路上生活始める意外すぎる事情 多くは段階的に、ただ突然そうなる場合も

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話しているうちに市役所の人もやって来て、半強制的にその場から自動車で移動することになった。そしてとある施設へ案内された。

「自殺をしようとした人たちで共同生活する施設やった。30人くらいの男女が生活してたかな」

流れ上、断ることもできず入居した。生きていくのに不自由はなかったが、自殺志願者が生活するのが前提だから生活にプライバシーがほとんどないし、何より知らない人ばかりの中での生活は非常に気疲れした。生活するうちに自殺をする気は削がれていたが、でもこのままその施設で暮らしていく気にもなれなかった。

ドヤ街の西成へ

「その施設で知り合ってウマがあった京都の男の人がいたんやけど、その人に『俺は車で来てるから一緒に出ていかないか?』って誘われた」

男性は、

「ここに住んでいてもラチが明かない。大阪の西成に行けば仕事があるだろう。そこでカネを稼いで次の手を考えよう」

と言った。そしてその話に乗り、男性の自動車で大阪の西成にやってきた。それが筆者がオジサンに話を聞く2カ月前のことだった。

西成の町並み(筆者撮影)

「彼は2~3日、西成で生活したら、急に里ごころがついたみたいや。『やっぱり俺は京都にいる家族の元に帰るわ。あとは元気にやれよ』って言って帰っていったわ」

オジサンは1人でドヤ街の西成に残されてしまった。持っていたおカネは少額ですぐに底をつきてしまった。今のドヤ街はそう簡単におカネが稼げるほど甘くない。

「何回かは肉体労働もしたんよ。でもこの歳だし、今までやったことないからキツくて……。1回仕事をすると体が痛くて眠れん。そもそもそんなに定期的には仕事がない。で結局、こうやって路上に寝ることになったわけや。今は公園でやってる炊き出しに並んで飯を食べてギリギリ生きてる感じやな。

炊き出し(筆者撮影)

もうすぐ嫁の3回忌やから、四国に帰らなきゃならんのだけど、炊き出しで糊口をしのいでいる状態では無理やわな。事情が事情だからあいつも我慢してくれるやろ……」

とオジサンはニコッと笑った。自嘲的な笑いではなく、なんだかあきらめた笑いだった。何か声をかけなくちゃと思ったが、何を言ったら良いのかわからない。

「これから何をしたいですか?」

実に月並みなつまらない質問をした。

「これからかあ。あんまり考えてなかったんやけど。そうやな、最後に人様の役に立ちたいわ。どこかの病院でこの体を人体実験に使ってくれないやろか? もう、どう使ってもらっても、バラバラにしても良いから。そうすればこの人生も意味があったと思えるんやけどな……」

僕は今度こそ何も言えなくなってしまった。

ホームレスを取材していると優しい人によく出会う。優しい人には幸せになってもらいたいが、そうとは限らないのが世知辛いところなのだ。三段壁の景勝を眺めながらオジサンが今も元気に暮らしているといいのにな、と思った。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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