ストレスを飲酒で抑え込むのが危ないワケ 耐性を高めるためには有酸素運動が有効だ

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お酒や薬が適切でないとすれば、何がストレス対策として最も効果的なのでしょうか? それが判明した、ある実験があります。

「MIST」と呼ばれるテストで、被験者は制限時間内、計算問題に取り組んで、モニター上で正しい答えを選ぶよう指示されます。解答するごとに、自分が正しかったかどうかが表示される形式のテストです。

あらかじめ正解率は80~90%と伝えられますが、実はこのテスト、被験者の答えが正しかろうが間違っていようが正解率が20~45%になるように細工されていて、正答率の低さに被験者はイライラを募らせます。

被験者にわざとストレスを与えて、それによってどんな反応を示すのかを調べるための実験、というわけです。

テスト終了後、血中のコルチゾールの値を調べると、ある人たちはコルチゾール値が明らかに低いことが判明しました。それは、テスト開始前に「30分のサイクリング」をするよう指示された人たち。彼らだけはストレス反応が有意に強く出なかったのです。

科学が「ストレス解消に最も有効」と断定した方法とは

この実験を含め、世界中で「運動とストレス」の相関関係を調べる研究が行われました。

結果、「有酸素運動がストレス解消には最も効果的。また、日頃有酸素運動を定期的に行なっている人は、日常生活においてストレスがかかりそうな場面に出くわしたとき、運動を習慣づけていない人に比べてコルチゾールの値が上がりにくい」と結論づけられました。

いったいなぜ、運動が脳を蝕むストレスを抑えつけるのでしょうか?

実はランニングやサイクリングなどの有酸素運動をすると、血中のコルチゾール値は一時的に上がります。これは自然な反応で、肉体に負荷がかかることは一種のストレスだからです。

筋肉を適切に動かすためには、より多くのエネルギーや酸素が必要になります。そのため、コルチゾールが分泌されて心臓の鼓動は早くなり、心拍数と血圧が上昇します。

しかし運動が終われば、体はもうストレスを必要としません。コルチゾールの分泌は減少し、やがて運動を始める前の値にまで下がっていきます。そして興味深いことに、ランニングを習慣づけると、走っているときのコルチゾールの分泌量は増えにくくなり、反対に走り終えた後に下がる量は増えていきます。

さらに、科学者たちを驚かせたのは、なんと定期的に運動を続けていれば、運動以外のことが原因でストレスを感じても、コルチゾールの値はわずかにしか上がらなくなることが判明したのです。

つまり、運動が、ストレスに対して過剰に反応しないよう体をしつけるのであり、有酸素運動によってストレスに対する抵抗力が高められるのです。

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