世界最高のストレス環境?宇宙船サバイバル ”宇宙医師”が語る、ストレス対策

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極限環境に置かれると自分自身も気づかなかった「素」があぶり出されてくる。何にストレスを感じるか、ストレスを感じたときにどうなるか、「評価」できると緒方医師は言う。

CAVESといわれる洞穴でのサバイバル訓練(出典:ESA)

「普段、偉そうなことを言っていても実際はどうか。調子が悪くなるときや動揺する場面は何か。一人ひとりの強い点、弱い点を評価して、カウンセリングで本人に伝え、『次はこうしようね』と具体的に補強できるようアドバイスをするのが訓練の目的です」。

たとえば、睡眠はストレスと大きくかかわるため、ひとつのバロメーターとなる。

「普段は問題ないのに、あるストレス状況下になると眠れなくなる。さらに、睡眠不足になるとイライラしてストレス耐性が弱くなるタイプがいたとします。これでは悪循環に陥ってしまう。そんな人には『眠れないといろいろなことに過敏になりますね、では、どんなストレスがあると眠れなくなるのでしょうか』と、自分の弱点が何かを自分で把握させる」。

また宇宙飛行中には、事前に予測しにくい事態も起こりうる。たとえば地上の家族が事故に遭遇するなどのケースだ。そのような場合、いかに宇宙飛行士であっても、できるだけ早く地上に帰還し家族のそばにいることを望むだろう。「だから(洞窟でのサバイバル訓練である)CAVESなどさまざまな訓練の機会を与え、いろいろな場面を通じて、ぽろっと出てくる『弱点』を拾い集めていくわけです」。

訓練を通してまず、自分自身を見る「内省力」や「客観力」を磨く。そして自分の弱点に対して、上手に対処できるような「柔軟性」を鍛えていく。

ストレス状態を客観視する助けとなるツール作りも、フライト・サージャンの仕事だ。ISSでは簡単な計算を行い、反応速度や正確さを見ることでストレスを計るツールはすでにあり、実際にストレスが高くなったことを把握できたケースもあるという。

ここまでストレス対策に重点を置くのは、宇宙飛行士にとってメンタルヘルスが重要であり、無理を重ねて宇宙で倒れても、本人をすぐに帰還させたり替わりの人をすぐに派遣することができないからだ。

それなのに「宇宙飛行士はまじめな人が多く、疲れていても『このくらいの疲れはなんでもない』という方向に走りがち。だから客観的に状態をとらえ、重い疲労をキャッチした場合には、たとえば地上のメンバーと交信を頼まれていても『疲れているから延期したい』とデータを示しながら言えるようになろう、と助言するのです」。

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