明日7日、アジア初の国際宇宙ステーション(ISS)船長となる若田光一宇宙飛行士が宇宙に飛び立つ。
若田飛行士は、間違いなく、世界の宇宙飛行士トップに立つ力量も人望もある。「しかし、それだけで船長になれるほど、この世界は甘くない」と、同僚にあたる野口聡一宇宙飛行士は言う。ISSは世界15カ国が参加する国際協力プロジェクト。船長の座は各国が狙うプラチナチケットであり、それをめぐっては「壮絶なせめぎ合い」があるというのだ。
ここで重要になるのが、各宇宙機関のマネジメントなどさまざまなレベルで行われる「宇宙外交」だ。
中でも重要なのが宇宙飛行士レベルでの交渉だが、その一端を担うのが、JAXA宇宙飛行士グループ長、つまり“リアル課長”である野口である。8人の日本人宇宙飛行士の長として、日本人の宇宙飛行機会を「取りに行く」のが野口の仕事のひとつだ。
野口の交渉の相手は、NASAやロシア、欧州の宇宙飛行士長。皆、2回ほど宇宙飛行を経験している現役の宇宙飛行士で、年齢も近い。「普段はいい友達ですが、交渉時は、まさに探り合い。互いに自国の状況とリソース、目的の出せるところは出し、隠すところは隠す」とにやり。
そんな“リアル課長”野口飛行士が物事を決めるときの基準は「面白い」か否かだ。先が見える仕事はつまらない。前例がなく、どうなるか読めず挑戦的である仕事ほど「面白い」と燃えるタイプだ。
「先が見えない」という点では、今、世界の有人宇宙開発もそうした時期にある。宇宙開発の現場が「官から民へ」と移行し、宇宙飛行士たちも揺れている。たとえばこの9月、ISS長期滞在船長に任命されていたロシア人飛行士が突然、辞職。世界最大の天然ガス輸出企業に転職が決まったと報じられた。NASAでも宇宙飛行士たちの民間への転職が止まらない。
宇宙飛行士と言えば誰もがあこがれる職業であり、「上がり」ではなかったのか? 野口が口にした現実は驚くべきものだった。
変わる、宇宙飛行士のキャリア観
「宇宙飛行に任命された後に辞めたのは、(ロシア人の)彼が初めてではありません」と野口は言う。米国のNASAでも宇宙飛行に任命され、訓練が始まったのに民間に転職した例もあるという。「日本人飛行士では絶対に起きない。国民性の違い」と言うが、どういうことだろう。
「宇宙飛行士といっても職業のひとつ。いい条件の仕事があったり、ほかにやりたいことがあれば仕事を移っていくのはおかしくない」
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