33歳、タイで転職繰り返す日本人女性の苦悩 コールセンターは安住の地ではなかった

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タイの首都バンコク。現地コールセンターで働く日本人の実態とは?(写真:ecobkk / PIXTA)
日本から飛行機で約7時間。東南アジア主力都市の1つ、タイの首都バンコクでは、現地にあるコールセンターで多くの日本人が働いている。といってもコールセンターは東京に本社を置く日本企業のそれで、働いている日本人は日本語で電話に応対し、業務内容も日本のコールセンターと変わらない。
そこには日本社会のメインストリームから外れた、もう若くはない大人たちが集まっている。非正規労働者、借金苦、風俗にハマる女、LGBTの男女――。生きづらい日本を離れ、行き着いた先にあるのは何か。「彼らはなぜタイに『墜ちた』と揶揄されるのか」(11月18日配信)に続いてフィリピン在住のノンフィクションライター、水谷竹秀氏の、成長を止めた日本のもう1つの現実を描いた新著『だから居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人』から一部を抜粋する。

バンコクを走るBTS(高架鉄道)のアソーク駅周辺は、高級ホテルや高層オフィスビル、巨大ショッピングモールが立ち並ぶ商業の中心地だ。この日私は、アソーク駅から徒歩数分のタイ料理店を訪れた。

「本当は歯を抜きたくなかったんです。抜くだけなら600バーツ(約2088円)なんですけど、神経を抜く治療には3万5000~4万バーツ(約12万1800~約13万9200円)はかかると言われました。年上の同僚からは奥歯抜いたよっていう話がちょいちょい聞こえてきたので、抜いた人の話を聞いて、笑ってもらったらギリギリ歯がないのが見える位置だったんです……。4万バーツ払うくらいなら一瞬、抜いちゃおうかなと思いました。でも見えたので無理! 治そうと思って」

(※本記事では直近の為替レート1バーツ=約3.48円にならって計算したが、本書では1バーツ=約3円で統一している)

九州出身の村上さやか(仮名、33歳)はグラスに氷を入れながらそう言った。30代半ばともなれば定期健診で何らかの異常も出てくる年代だ。だがオペレーターたちの多くは、経済的な事情から「抜歯」という手段を選ばざるをえないという。

村上は旅行代理店で働いているが、つい1年ほど前まではコールセンターの社員として電話応対業務をこなしていた。奥歯の隣の歯が痛み出したのはその当時のことだ。だが、月給3万バーツ(約10万4400円)をすべて使い果たしてしまう浪費癖のせいで、村上に貯金はなかった。

治療費を捻出するためには、コールセンターの月給だけでは長期戦が予想され、その間に歯はどんどんむしばまれていく。社内規定で副業は禁止されているが、そんなことを気にしていられる状況ではなかった。知人から「居酒屋でスタッフを募集している」と聞き、早速紹介してもらうことにした。

オペレーターと居酒屋の掛け持ち生活が始まった。日中はコールセンター、勤務時間終了後にタクシーでタニヤ通り周辺の居酒屋まで直行し、深夜まで働く。タニヤ通りはゴーゴーバーが林立する東南アジア最大の歓楽街、パッポン通りに平行して走っており、日本人専用のカラオケ店が集中している。

1日中働き詰めの日々だったが、その甲斐(かい)あって1カ月2万バーツ(約6万9600円)の臨時収入で、無事に歯の治療を済ませることができた。治療費は3万5000バーツ(約12万1800円)かかったという。

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