葬儀の深奥に迫り続ける男の波乱万丈人生 70歳、負債5000万円。でも終わってない

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打開策が出ずあえいでいるとき、追い打ちをかけるようにリーマンショックが起きた。下降線のカーブは崖のように急峻になり、立て直しはますます困難になっていった。

スポンサーの資金は2004年に完済したが、そのために表現文化社は銀行から4000万円を借りている。毎号の売り上げで借金を返していたが、利益が小さくなっていくとどうしても返済計画はうまく回せない。いつしか、碑文谷さんが個人として請け負った講演料や他誌での原稿執筆料なども充てるようになっていた。そして、最終的にはほかのメンバーを役員から外して自分1人を連帯保証人に置いた。

最終号は2016年8月に発売した154・155合併号。通常号の2倍のページ数を使い、これまでの総括として自らすべて編集執筆した「葬送の原点と歴史」特集と、人類の葬送にまつわる歴史年表を中心に構成した。新しい取材記事や巻頭の葬儀レポートコーナーがなかったのは、直前の号で外部のライター、カメラマンへのギャラ支払いを終え、彼らに不払いを発生させないためだった。

最終号の次号予告(筆者撮影)

同年9月に実施される平成28年度の葬祭ディレクター技能審査に影響を与えることを懸念し、これが最終号であることはひた隠した。最終ページには出す予定のない次号予告まで載せている。

技能審査が済んだ9月末、表現文化社の公式ページに「ご報告」と題した文書をアップし、そこで初めて『SOGI』の休刊と、同社の閉鎖を公表した。また、最後まで定期購読を続けていた人には、自筆のメッセージを添えた手紙も送付している。

最終的に負債は5000万円を超えていた。

カネの切れ目は縁の切れ目

「雑誌なんだから広告ももっと積極的に取りにいかなければならなかった。営業力が弱かった。儲かってもポリシーに反することはしなかった。これが売り上げ的に大きかった。けれど、理念や自由に制約がかかることはしたくなかったんですね。自由にやりたいから出版社を飛び出して、スポンサーからも独立したんだから。……結局、いろいろなことに折り合いをつけて経営する能力がなかった。カネもなく経営能力もない人間がこういうことをやると苦労する。その見本みたいなものですよ」

「カネの切れ目は縁の切れ目」とはよくいわれるが、碑文谷さんの周りでも告知後に離れていく人は多かった。地位や立場を超えて深く付き合っていけると思っていた仲間や同志、知人のうち4分の3は消えていったとか。

「もともとおカネのつながりはそんなにはないわけですよ。それでも、経済的に破綻としたという事実は大きく受け止められるということなんでしょうね。おカネがどうこうより、終わった人間と思われたんじゃないかと思います。終わった人間、もう付き合っちゃいけない人間みたいな感じでね」

そう語る碑文谷さんはどこか楽しそうだ。それは「終わった人間」という評価を覆す自信や意欲が根底にあるからだと思う。

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