――書籍のタイトルにもなっている「強みを活かす」とは反対に、「弱みをつぶす」ラインはどこになるのでしょうか。
これは神戸大学の金井壽宏先生がおっしゃっていたことなのですけど、いわゆる「デンジャーコントロール」ができるラインで構わないと思います。弱みを放置するとチームでトラブルになるとか、取引先に迷惑をかけるという状態なら、修正の必要はあります。しかし、本当に成果を早く、確実に出したいなら、弱みを潰すより強みを活かすほうが得策です。
――かつて多くの日本企業では、上からの「人材育成」に従う、素直で均質的な人材が求められていました。
これまでは工場労働での発想をベースにいかに効率化するか、ということを考えていましたが、今は知的労働の時代。人材が均質化すればするほど、凡庸な会社になる。差別化を図るためには、上からの「人材育成」ではなく、個々人の「才能開花」を引き出す環境作りこそが大切になります。
マネジメントはすべて「ばれる」時代
また、今までのマネジャーなら、部下の「弱み潰し」を徹底的にやれば権威も保てていたのですが、現代ではそれは無理。これまでは、どのようなマネジメントをしているかは周りには「ばれない」時代でした。しかし今はLINEやフェイスブックでいつでも誰とでもつながっている状態なので、社員の間では、悪い情報もいい情報もすごいスピードで流通している。
表面的なコミュニケーションがうまくても、すぐばれてしまいますよね。格好いいことばっかり言ってても、「あの人うそだよね」と思われている人たくさんいます。しゃべりが下手で、PRがうまくなくても、「本当に誠実かどうか」が重要。この「マネジメントがばれる」時代になったということは、本当に大きな転換なのですが、気づいていない人は結果としてパワーハラスメントという形で問題が露呈してしまっているように思います。
――「働き方改革」の議論も盛り上がってきていますが、見過ごされていると感じる点や、違和感などはありますか。
副業解禁など、さまざまな論点がありますが、私は新しい論が出てきたら、必ず「And」思考を取ることが大事だと思います。かつて、日本企業で成果主義が盛んに導入されましたけど、あまりにドライすぎて職場がギスギスしてしまった。組織は思考が偏るもの。「Or」の思考だと極端になりがちで、反発を生みやすくなってしまう。今あるものをベースに、新しいものを掛け合わせたほうが、結果としてイノベーションが生まれると思います。
また、働き方改革の議論では、生産性向上の論点が、単純に時間の問題をベースに考えていることが気になりますね。健康問題は何はともあれ大事で、これは大前提ではあるのですが、労働時間の長短と個人の能力を活かした成果は必ずしもつながらない。この先、時間の問題と個人の才能の問題がセットにして論じられる展開が控えているかもしれないので、伸び代もすごくあると思っています。
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