トランプ「支持率最低」政権の深刻すぎる前途 就任半年で政策動かず、ロシア疑惑が重し

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民主党内にも、「弾劾告発書」を提出するのは時期尚早であるとの意見が強い。民主党の下院院内総務のペロシ議員は、当面、ロシアゲートに関しては弾劾を求めるよりは下院で独立調査委員会を設立することを優先すべきだと主張している。ただ、民主党下院議員の中にはマクシーン・ウォーターズ議員、アル・グリーン議員、ジャッキー・スペイアー議員のように「弾劾告発書」を提出してはいないが、公然とトランプ大統領の弾劾を主張している人たちがいる。

こうした民主党内の思惑に対して、シャーマン議員は「権力の乱用、司法妨害から我が国を守る長い闘いの始まりであり、勝ち目のない賭けだが、共和党がトランプ大統領を追放する法的な手段を確立するものだ」と、自らの意図を説明している。

米国憲法第2章第4条には、大統領は「反逆罪、収賄罪、その他の重大な罪(high crime)、または軽罪(misdemeanors)につき弾劾の訴求をうける」と規定されている。現在、主に「司法妨害」を理由にトランプ大統領の弾劾を求められている。だが憲法の規定では「軽罪」でも弾劾訴追をする理由になりうる。

ロシアゲートは重しであり続ける

その意味で注目されるのは、現在、司法省のロバート・ミュラー特別検察官が行っているトランプ大統領の捜査の行方である。最近、トランプ大統領の長男が、電子メールで「ロシア政府は大統領選挙でトランプ陣営を支援しており、クリントン候補にマイナスになる情報を提供する」と持ちかけられ、ロシア人弁護士と会っていたことが明らかになった。単にロシア政府の大統領選挙介入問題だけでなく、トランプ大統領とその家族のロシアビジネスなども捜査の対象になるだろう。

2016年12月に民主党議員5名が、トランプ大統領、ペンス副大統領、トランプ一家が公職に対し利益相反となる事業から撤退することを要求する法案を提出している。これは憲法第1章第9条第8項の「報酬条項」に基づくものである。同条項は、公職にあるものは「他の国から、いかなる種類の贈与、俸給、官職、または称号を受けてはならない」と規定している。この条項をめぐってはトランプ大統領に対する訴訟も起こされている。捜査の進展次第では、この条項に違反する事実が明らかになってくる可能性もある。

有権者のトランプ離れだけでなく、共和党離れも既に始まっている。ギャラップ調査では、トランプ政権が誕生した2017年1月には共和党支持は28%、民主党支持が25%、無党派が44%だったが、6月になると共和党支持は2ポイント減の26%、無党派も同様に42%に減ったが、民主党支持は5ポイント上昇して30%となっている。民主党に風が吹き始めたが、その影響が共和党地盤のオクラホマ州の連邦下院の補欠選挙に表れた。7月11日に行われた同州の2選挙区の選挙で民主党が勝利を収めた。今年に入ってから行われた補欠選挙で民主党は4議席を増やしている。

トランプ大統領の支持率の低下が続くと、来年の中間選挙で共和党の候補者は苦戦を強いられるだろう。もしトランプ候補で戦えないという雰囲気が出てくれば、トランプ大統領の求心力は一気に低下する可能性がある。弾劾を巡る動向がどうなるかは不透明だが、短期間で決着が付く問題ではない。トランプ大統領は常に弾劾の脅威に晒されながら政権運営をしていかなければならない。もし多くの共和党議員がトランプ大統領を見捨てれば、下院での大統領弾劾の動きが加速するかもしれない。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』。

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