ナイキ「速く走れるマラソンシューズ」の衝撃 スポーツ用品の技術革新はどこまでOK?

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ナイキの幹部は、「ブレーキング2」のコース設計や薬物テストにおいてIAAFと緊密に連携しており、シューズについても「共有」するとしている。また、カーボンファイバーを内蔵したソールは、以前から業界で使用されていると指摘する。

「われわれは規則の範囲内で選手たちに利益を与えている」とナイキのスクールミースターは言い、こう付け加えた。「違反のスプリングなどは使用していない」

スポーツと技術革新の関係

だが運動生理学者のタッカーは、ナイキはシューズがスプリングの働きをすると主張していることから、違反と見なされるべきだと考えている。もし同社のシューズが禁止されることがあれば、IAAFのあいまいな規則も同時に改訂すべきだとタッカーは指摘する。

現在ナイキがスポンサー契約を結んでいるランナーの中で最速のエチオピアのケネニサ・ベケレは、フルマラソン2時間切りを目指す別のプロジェクトに参加している。昨年9月のベルリンマラソンで、ベケレはズームヴェイパーフライを着用し、2時間3分3秒という世界2位の記録を達成。4月のロンドンマラソンでも同じモデルを着用し、世界記録の更新に挑むつもりだ。

ベケレが参加しているプロジェクトを率いるイングランド・ブリトン大学教授でスポーツ科学者のヤニス・ピツラディスは今年、ベケレがベルリンマラソンで着用したシューズをCTスキャンにかけ、そのとき初めてミッドソールに内蔵されたカーボンファイバープレートの存在を知った。

プレートはスプリングのような働きをするとみられるため、このシューズは禁止されるとピツラディスは思ったという。しかし、禁止されないかぎりはベケレはそれを使い続けるつもりだ。ベケレがピツラディスに語ったところによると、そのクッション性と長距離を走ってもふくらはぎの筋肉が痛まない点を好んでいるという。

オランダの元長距離ランナーで、キプチョゲやベケレなどトップランナーのマネジメントを手掛けるヨス・ヘルメンスは、最新のモデルが禁止されるようなことがあれば「驚き、失望する」と言う。

スポーツは技術革新を歓迎すべきだとヘルメンスは主張する。陸上トラックがシンダー(石炭殻)から合成ゴムになり、棒高跳びのポールが竹からグラスファイバーに変わり、シューズのクッション性を高めるためにエアブラダーやジェルが採用され始めたようにだ。

「私たちは中世に生きているわけじゃない」とヘルメンスは言う。「今後も新しい技術や素材が誕生する。今は後ろ向きではなく、前へ進むものが生み出されるときだ」

(執筆:Jeré Longman、翻訳:中丸碧)

(C)2017 The New York Times News Services 

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