「線路内立ち入り」は法的にどう問題なのか 「列車が来ていて危険だから」が理由ではない

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線路内立入の全てが処罰されるわけではないし、全てを処罰するのも物理的に不可能である。鉄道営業法第37条違反の罰則は科料という軽いものが定められており、線路立入の軽微なものまで処罰する必要があるかという視点もあろう。しかし、列車の運転に具体的な影響を与えなくても、それが類型的、形式的に列車運行に対して危険なものと一律に扱われるものであるということを認識すべきである。

ひっきりなしに列車が行き交う路線でもない限り、線路でもホームでも列車が来ていないときには少しくらい限界線を越えても大した問題ではないように思うこともあるかもしれない。しかし、具体的な危険がそこになかったとしても、鉄道地内へのむやみな立入行為は自身に危険なだけでなく、鉄道営業に対し類型的、形式的に危険かつ大きな影響を与えるものと考えられているということを、我々も今一度肝に銘じるべきである。

ホーム上での行動にも注意を

肝に銘じるついでにだが、線路のように人が立ち入ることを想定しない場所についてだけでなく、ホーム上での行動も十分に注意されるべきである。

たとえば、最近は駅のホームで三脚を立てての写真撮影が禁じられることが多い。その禁止に反して三脚を立てたり、あるいは白線等をまたいで三脚を立てたりしたからといって、有効にホームへ立ち入ることができる利用者のその行動を「みだりに鉄道地内に立入った」ということは難しい。

しかし「形式的に危険」とは認められず、それだけでは刑事事件にならないものであっても、その結果、故意または過失により列車に対して個別具体的な危険(三脚が列車に接触するなど)を発生させるようなことがあれば、単なる鉄道営業法違反を越えて、前述したより重い往来危険罪や過失往来危険罪が成立することもあり得る。

係員の制止を抑圧するようなことがあれば、鉄道事業者に対する威力業務妨害罪(刑法第234条・3年以下の懲役または50万円以下の罰金)の成立すら考えられる。刑事責任だけでなく列車運行に混乱を与えれば、民事上の損害賠償責任を負うこともあり得る。

今回のことを他山の石として、知らず知らずのうちに自分に対しても周囲に対しても重大な結果を招くことがないようにしたいものである。

小島 好己 翠光法律事務所弁護士

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こじま よしき / Yoshiki Kojima

1971年生まれ。1994年早稲田大学法学部卒業。2000年東京弁護士会登録。幼少のころから現在まで鉄道と広島カープに熱狂する毎日を送る。現在、弁護士の本業の傍ら、一般社団法人交通環境整備ネットワーク監事のほか、弁護士、検事、裁判官等で構成する法曹レールファンクラブの企画担当車掌を務める。

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