「駆け付け警護」は自衛官の命を軽視しすぎだ 南スーダンで多くの隊員が死ぬかもしれない

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左写真はイギリスの展示会「DSEI」で展示された、戦傷手当用の訓練システムを取り付けた両肢を失った兵。右上写真はDSEIで展示された、切断された下肢の処置の訓練用システム。右下写真は、パリで行われた防衛装備見本市「ユーロサトリ2016」で米陸軍が展示した応急処置訓練用の人形。傷口が極めてリアルで、ボディはシリコン製で肌の質感も人体に近い(いずれも筆者撮影)

ところが政治家や国民は災害派遣の印象だけで、自衛隊を精強であると信じ込んでいる。これには、自衛隊の実態や問題点を指摘してこなかったマスメディアにも責任の一端がある。実は先の東日本大震災でも、さまざまな問題が発生した。無線機が足りず、しかも通じなかった。鳴り物入りで導入した無人ヘリは信頼性が低く、一度も飛ばなかった。NBCスーツ(化学防護服)もほとんどなかった。

日本のメディアでは、これらの問題が報じられることは少ない。そのため、なおさら自衛隊の実態と国民が抱いているイメージとの乖離が大きくなっている。

確かに災害派遣では現場の部隊は頑張っている。しかし、彼らは中央の無策を現場で懸命に補っているに過ぎない。政府も国民もこうした現場の頑張りを当然と思ってはいないか。その現場力が、戦闘場面でも発揮されると期待しているのではないだろうか。

自衛隊の致命的な欠点とは?

自衛隊の個人携行救急品

言うまでもなく、戦争というものは現場力だけで戦えるようなものではない。実戦にあたって、自衛隊には致命的ともいえる欠点がある。それは「戦傷医療体制の不備」である。

自衛隊は戦争や戦闘で犠牲が出ることを想定してこなかった。各隊員が個人で装備する「ファースト・エイド・キット」は米陸軍が19アイテムを携帯しているのに対し、陸自はPKO用で8アイテム、国内用では3アイテムに過ぎない。太平洋戦争時における旧日本軍と同じか、それ以下の装備だ。

訓練もお粗末だ。米軍が将兵に施している救急処置の訓練項目は59項目だが、陸自がやっているのは2項目しかない。10月11日の参議院予算委員会での答弁で防衛省は個々の隊員の救急処置について「47項目を訓練している」と回答した。だが実技試験によって保証されている救急法検定項目はわずか2項目である。それ以外は各部隊長の努力目標であり、訓練する義務はない。これでは、教科書を配ったからみんな技能を持っていると主張しているのに等しい(米軍は座学、実技、試験を行っている)。

メディック(衛生兵)もお粗末だ。諸外国のメディックは高度な医療技術をマスターした専門家で、心電図モニター、超音波診断機器を駆使して傷病者の緊急度を判定し、治療の優先順位を判断することに長けているし、投薬、注射、簡単な手術もできる。

だが、自衛隊のメディックは麻酔投与すらできない。しかも陸自のメディックは人数が少なく、隊員250名あたり1名しかいない。我が国からODA(政府開発援助)を受けているヨルダン軍では1個分隊15名につき1名である。いかに少ないかがわかるだろう。

諸外国では下車歩兵1個分隊につき1つは折り畳み式の担架と後送に必要な救急品一式のセットを携行している。しかし、陸自には全く存在しない。そして戦闘地域の患者集合地点から負傷者を安全に運ぶための装甲野戦救急車も、これまた1台も存在しない。

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