違法にクビにされても法律で救われない現実 「泣き寝入り」撲滅のための制度を導入せよ

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Bさんは、「これなら不当解雇を撤回させられるかもしれない」と少しの希望を抱いて、あっせん期日に臨んだ。しかし、労働局のあっせん委員からは「長く争いを続けてもいいことないよ。まだ若いんだから早く終わらせて、次に転職した方がいいから」と説得されてしまった。Bさんは長く争ったのでは転職活動に支障が出ると思い、結局10万円の和解金をもらうことで会社と和解した。翌日以降、Bさんは、失業保険をもらいながら、転職活動に励んでいる。
45歳Cさんのケース(弁護士使って裁判所)
「あんな意味不明な理由でクビになるなんて…そんなに簡単にクビにできるわけないだろう。日本の労働法は厳しいんだから! 弁護士つけて裁判だ! たしか法テラスに行けば相談は無料なんだったよな」
法テラスとは、経済的余裕がない人に無料で法律相談を行い、弁護士費用の建て替えなどを行う組織だ。また、労働審判とは、原則3回以内の期日で和解成立を目指し、和解が整わなければ「審判」という判断が下される裁判所の労働紛争解決手続きをいう。Cさんは法テラスで弁護士に相談した結果、普通の訴訟は数年かかるケースもあるということで、労働審判を申し立てることにした。
労働審判では解雇の不当性を主張した。裁判官の印象は悪くないようだ。ただ、審判委員からは「せっかく会社も話し合いに応ずるという姿勢なので、金銭で解決してはどうでしょうか。半年分の給料がもらえれば悪くないでしょう」と説得され、最終的には180万円の和解金をもらい、解雇ではなく会社都合で退職したことにして和解成立となった。

 

以上のようなケースは現実によくある事例をデフォルメしたものです。これを見たうえで、なぜ、労働法で「救われない」人たちが居るのか考えてみましょう。

制度として金銭的保障があるほうが合理的?

理由1:すでに転職を決めている(ある意味泣き寝入りの一種)

退職を強要されたり、解雇を言い渡された段階で、すぐに会社に見切りをつけて、次の就職を決めてしまう、Aさんのような人たちがいます。このような方は、実態としてかなり多い印象があります。次の就職先が決まっているため、「もめ事を抱えたくない」という気持ちからわざわざ訴えないのです。本来訴えれば勝てるのに、時間も手間も掛けたくないから訴えられずに、「自分の権利を実現できない」というのはある意味泣き寝入りの一種と言えるでしょう。裁判をする必要がないのですから、労働法で保護するよりも、最初から制度として金銭的保障が定められているほうが、よほど保護になります。

理由2:純粋な「泣き寝入り」

泣き寝入りと言っても2パターンあります。まったく訴えないケースと、弁護士に頼まずに、あっせんなどで丸め込まれてしまった、Bさんのようなケースです。

まず、まったく訴えないケースとしては、退職強要に応じて退職届を出したり、解雇されても訴えることをそもそもしない場合が多く見られます。これは、「会社と戦う」ことに抵抗感がある人、戦う気力を無くしてしまった人など、さまざまな類型があるようです。また、Bさんのような例は、本来は裁判をやればもっと和解金を取ることが可能でした。しかし、早く紛争を終わらせたいという気持ちから、極めて低額な和解をしてしまうケースも実際に多くあるのです(この点はまさに、濱口桂一郎執筆『日本の雇用終了』に多数の事例が紹介されている)。

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