中国の統計が歪んでいくカラクリ 「客観的な正確さ」よりも「政治的な正確さ」

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 この連載コラムでは、中国のみならず、台湾、香港、東南アジアを含む「グレーターチャイナ」(大中華圏)をテーマとする。私は20代から40代前半の現在まで、留学生や特派員として、香港、中国、シンガポール、台湾に長期滞在するチャンスに恵まれた。そうした経験の中で培った土地勘を生かし、「大中華圏」 での見聞を硬軟取り混ぜて皆さんにお伝えしていきたい。
輸出額など中国の統計には、論理的に矛盾のあるものも多い(写真:Imaginechina/アフロ)

一致すべき数字が80ポイント乖離

92.9%と13.8%。

これは2013年3月における「中国から香港への輸出額」の前年比伸び率の数字である。92.9%は中国政府が発表したもので、13.8%は香港政庁が発表したものだ。

出す方と受ける方で、本来なら一致すべき数字が80ポイント近くも懸け離れている。輸出入の統計は集計の方法や時期の違いなどから、多少ズレが出ることはある。しかし、この差はあまりにも現実離れしている。

中国政府は1~4月累計の輸出額も発表しているが、中国全体で17.4%増、香港向けに限定すると69.2%増に達した。欧州連合(EU)の0.9%減や日本の3%減と比べて突出して高く、中国全体の輸出増の半分は香港向けで稼ぎ出したことになる。しかし、需要が落ちている欧州向けの中継基地である香港で、大きな輸出増が起きているのは明らかに不自然だ。

その実態は「香港一日遊」と呼ばれる偽装貿易である可能性が濃い。

中国は、投機資金の流入を防ぐため、外貨の持ち込みを厳しく規制しており、一部の企業は規制の緩い貿易決済を利用して外貨を獲得している。物資を香港の子会社などに架空輸出し、受け取った外貨を国内投資に回しているのだ。加えて、香港への優遇制度によって香港向け輸出は一部の税金が免除されるメリットもある。もともとあった「裏技」だが、世界的な金融緩和で投機資金の中国流入が活発化していることに加えて、貿易統計の「お化粧」のため、当局が「香港一日遊」の黙認度を高めたとも指摘されている。

この数字が発表された5月以来、世界中のアナリストは「中国の統計は怪しい」という声を上げた。しかし、統計の正確さについて中国を批判したところで、一時的に改善されても、本質的には変わらないと私は考えている。なぜなら、中国では「統計が政治に従属する」という考え方がシステムに宿命的にビルトインされており、統計の「客観的な正確さ」よりも「政治的な正確さ」が優先されているからである。

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