「外来種は悪者だ」を否定する本は悪書なのか 生きもの好きだけに地球を任せてはいけない

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想像の産物に過ぎない「手つかずの自然」を守るのではなく、外来種の活力と「侵略本能」を活かして自然の再生をめざすニュー・ワイルドこそが21世紀の環境保護ではないか、これが著者の結論である。本書の立場に賛成か反対かはともかく、環境保護運動にかかる必読の1冊であろう。

ところで、本書は一部の専門家には評判が悪いようだ。例えば「悪書、著者は生き物がそんなに好きではないのでは? 生き物が好きでないなら余計なことは考えず(黙っていてほしい)」「雑な本がわざわざ翻訳されてそれを門外漢が書評する」などなど。

地球を「生き物好き」だけに任せておけばいいのか

『外来種は本当に悪者か?:新しい野生 THE NEW WILD』フレッド・ピアス (著), 藤井留美 (翻訳) 書影をクリックすると、Amazonのサイトにジャンプします

僕は、悪書や雑な本は「第3者による検証が不可能な『新資料』『新事実』に基づいたもので、学問的な実証手順を抜きにして組み立てられたもの」と理解しているが、本書がそれに当たるのだろうか。「著者は生き物が嫌いでは」と言う人はおそらく生き物が大好きなのだろう。しかし、地球は生き物が好きな人だけに任せておいていいのだろうか。

「門外漢の書評」も同じで、素人は口を挟むなと言われれば、僕は生命保険本の書評しか書けなくなってしまう。そもそも、素人の判断を信じることが民主主義の根幹ではなかったのだろうか。多様な素人の意見を、悪書、雑な本などと決めつけるこのような一部専門家が、仮に自然の多様性を守れという運動をリードしているのであれば、その運動は市民的な拡がりを欠くようになるのではないだろうか。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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