(第5回)崩壊的革新

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■ 材料が出尽くしたとき崩壊的革新が始まる
 こうした崩壊的革新を生み出すコンバージェンス型の製品やサービスが誕生するとき、その素材となる材料は出尽くしています。たとえば、携帯電話のコンテンツビジネスでは、次のような材料がすでに存在していました。

コンテンツ課金はサービスプロバイダが行い、その手数料は少額である。
コンテンツプロバイダは、サービスプロバイダと共同でアクセス数を増やすプロモーションを行う。
すでに他の領域で、類似したビジネスを展開していたコンテンツのプロバイダが存在した(ダイヤルQ2やインターネットサービスプロバイダ)
有線通信におけるパケット技術は確立していた
インターネットが普及していた

 この他にも、さまざまな材料がすでに用意されていましたが、「携帯電話を誰もが所有し、いつでもどこでも電話できるだけでなく、コンテンツを楽しめる」というコンセプトのもとに、さまざまな材料をコンバージェンスして、実現させたことは、大きなパラダイムの変換だったといえます。
 クーンがその著書「科学革命の構造」で明らかにしたように、コンセンサスを形成するまでは、さまざまなアイデアが乱立し、これが次のパラダイムを生む材料となります。一度、あるコンセプトが過去の材料をコンバージェンスし、これがコンセンサスとなると、パラダイムとなり、精緻化が進みます。すると、今度はそれ以外のアイデアを排除する方向へと進み、既存のパラダイムを守る方向に進みます。そして、パラダイムのほころびが見えたとき、次の崩壊が始まります。これが、前述した安定的革新から崩壊的革新に向かう構造だと思われますが、前述したリゾーム論はパラダイムを否定するかのように思えることは興味深いところです。いずれにせよ、TMT企業は、新旧の技術のロードマップを予想し、その安定的革新と崩壊的革新の過程のシナリオを描いて、その過程を制御するとよいでしょう。そして、これから始まる崩壊的革新の中で生き残るためには、たてまえや表向きはどうであれ、したたかに崩壊的革新の波に乗ることだと思います。
 このような崩壊的革新を制御する方法として、DTTでは、TMT企業は、崩壊的革新を実現しようと驀進する企業との無用な競争を避けるように推奨しています(Be Prepared, DTT)。崩壊的革新と信じて生み出される技術のほとんどは、崩壊的革新にならずに早い時期に消え去るからです。また、DTTは、同じ技術を使っていたとしても、既存の事業と崩壊を起こす可能性がある事業を分離して管理するよう推奨しています。この方策をとるのは、何より顧客が異なるからで、いつの時代も技術よりも顧客が優先することには変わりがないからです(The Hundred Year Storm, DTT
 なお、このレポートの意見の部分は私見です。

トーマツの情報メディア通信サービス
池末成明(いけまつ・なりあき)
監査法人トーマツ TMT(情報・通信・メディア)グループ シニアマネージャー
E-mail tmt@tohmatsu.co.jp
URL http://www.tohmatsu.com/
妻、高校1年生の娘と千葉県我孫子市に在住。犬を飼えるよう妻と交渉中。
趣味は、音楽鑑賞(モーツアルト、バッハ、プッチーニ、レハール)、神社めぐり、家系調べ、読書。
昨年は、夢枕獏、キャサリン ネヴィル、ダン・ブラウンと娘の影響で「NANA」にはまる。
ナルニア国物語が映画になったことが嬉しい。小学校からのナルニア国物語のファン。
科学史と各国の古代史に関心。
【経歴】
1957年 東京生まれ
1980年 国際基督教大学 教養学部卒(物理学専攻)
1980年 富士通株式会社 海外事業本部にて中近東・南アジアの通信ビジネス担当を経て、パソコンビジネスの海外マーケティング担当
現在 監査法人トーマツ TMTグループで開発業務管理に従事
【著作】
「コンテンツビジネスマネジメント」(日本経済新聞社、共著)
「ビジネス環境および諸概念-米国公認会計士試験実戦問題集」(中央経済社、共著)
「米国公認会計士試験実戦問題集 ビジネスロー・税法」(中央経済社、共著)
「新・米国公認会計士試験重点解説シリーズ ビジネス・ロー」(清文社)
「米国公認会計士試験重点解説シリーズ ビジネス・ロー」(清文社)他
池末 成明

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