都内の閑静な住宅街、真夏の陽が痛い。アスファルトからは湯気のように気体が立ち昇る。門構えが立派な高級住宅が建ち並ぶ中に、公営の図書館がある。公園が隣接し、放課後に遊ぶ小学生や小さな子どもたちの声が聞こえた。
谷村綾子さん(37歳、仮名)は、この図書館に勤める図書館司書だ。館内に入ると神聖とも言える静かな雰囲気、司書たちはカウンターで貸し出し返却業務、カートを押して本の整理、カウンター奥の事務スペースでは黙々と事務作業をする。館内は広く、週刊誌や文庫本から専門書、地域の資料まで幅広い本がそろう。谷村さんの終業時間は17時15分。隣の公園で待つと、17時20分にはやって来た。黒髪、清楚で堅いイメージ、おだやかでまじめそうな女性だった。
「市の嘱託職員になります。図書館で働く司書の7割くらいは非正規雇用で、給与は安いです。未婚、ひとり暮らしなので正直、毎日不安と焦りばかりです……」
役所、義務教育機関、福祉施設の運営、公園管理、文化観光、清掃、防犯防災などなど、市区町村の仕事は幅広い。膨大な業務があり、とても正規採用された職員だけではこなせない。それぞれの公共機関で多くの非正規職員を雇用して、業務を回して運営している。
賞与はなく、年収204万円
駅近くの喫茶店で話を聞くことにした。駅に向かって歩きながら、給与明細を見せてもらう。支給総額は17万円。所得税、住民税、社会保険料を引かれて、手取り金額は13万3442円。賞与はなく、年収204万円である。非正規職員の平均賃金は205万1000円(平成27年賃金構造基本調査統計)、谷村さんは平均的な非正規労働者と言える。
年収204万円、手取り13万3442円で、家賃5万円のアパートでひとり暮らし。手取り給与から家賃を差し引くと、月8万3000円しか残らない。貧困では「相対的貧困」という概念が使われる。「相対的貧困」は国民1人当たりの可処分所得の平均の、さらに半分に満たない状態を言うが、家賃を引いた可処分所得が99万6000円の谷村さんは、実質的にはこの水準に近いといえるだろう。行政機関で通常の常勤職員として働き、非正規雇用の平均給与を稼ぐひとり暮らしの女性が「相対的貧困」に足を突っ込みかねない時代に突入している。
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