2016年に入ってから、奨学金をめぐる問題に関心が集まっている。これまで貸与型の奨学金しか存在しなかったことが特に問題視され、ついに政府も重い腰を上げた。返済不要の給付型奨学金について、「『ニッポン1億総活躍プラン』の中で『創設に向けて検討』することが明記され、閣議決定される予定になっている」(文部科学省)という。
このテーマについて問題を提起し、世論をリードしてきたのは、奨学金問題対策全国会議だ。奨学金の返済に苦しむ人は、構造的に生み出されている「被害者」であると主張して、論陣を張ってきた。
一方、NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏は、現場に身を置く立場から、これまでとは少し視点を変えて、この問題について世論を形成していくことを目指しているという。貧困に陥っている人には、なぜ給付型の奨学金が必要なのか。インタビューの前編である今回は、合理的な経済人を前提とするのではなく、現実の人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明する行動経済学の観点から話を聞いた。
議論を「コップの中の嵐」にしないために
――これまでされてきた主張と、具体的にどの点が違うのでしょうか。
「給付型奨学金を導入するべき」という主張の内容はおおむね同じです。しかし、これまで奨学金問題を取り上げていた人たちは、「今の奨学金制度はとても悪いから、給付型にせよ」というロジックのように見える。
こうした主張も善意からされているものだし、当然、リスペクト(尊敬)する気持ちはあります。しかし、今の与党はどちらかというと右派なので、左派系からの言説だけだと届きづらい面も出てきてしまい、議論が「コップの中の嵐」になりがちです。経済界の方々も賛成しうるような、行動経済学の見地からのロジック立てが必要だと考えました。
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