「給付型」奨学金が日本の貧困層には不可欠だ 成績だけで決めるべきでない本質的理由

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――「トンネリング」を解決するための事前の情報提供に予算を使うことでは、解決できないのか。

事前の情報提供は、そこそこ効果があるため、もちろん取りうる手段です。しかし、もっとあからさまにやることがよいという実験結果もある。

これはアフリカの事例ですが、文字を読めたほうが確実に所得が上がるということで、現地の子供たちのために無料で学校を作りました。中長期的には小学校に行けば先々のリターンが大きいことは明白です。当然、人々は子供をここに通わせるだろうと考えられました。しかし、今日の食べるものにも困る状況では、親は子供に、「学校に行くより、目の前の畑作業をやってくれ」となってしまい、思ったほどに進学率は伸びなかった。

そこでどうしたかというと、授業だけでなく、給食も無料で提供することにした。「学校に行けば、子供が食事にありつけることができる」という意識が出て初めて、進学率の大幅な向上に成功したのです。

「経済合理的な思考」を促すサポートが必要

――貧困に陥っている人に対しては、想定以上にわかりやすいインセンティブを提示しなければならない。

「トンネリング」を起こしている人たちには、一歩踏み込んで、中長期的な合理性に導くというパターナリズムが必要なのです。しかし、合理的な考え方をする先進国では、こうした考え方をなかなか取りづらい。「どうしてお前のためにいろいろ提供しているのに、さらに別のお駄賃をあげないといけないんだ」といった発想になってしまう。

――奨学金についても、「貸与さえあれば十分だ」という主張をする人もこうした発想が前提になっているように感じます。

そこを乗り越えていくことが、われわれの課題です。日本の福祉には、行動経済学の視点が全然生かされていません。ルールを決める人は貧困ではないことが普通で、「できる人」の目線でしか考えられない。「トンネリング」のことをそもそも知らないことが多いし、貧困者とか低所得者層がどういう状況に置かれているかの知見も、あまりない。

「貧困層は経済合理的に行動することを期待できない」という話を啓発して、「そうなんだ。じゃあ、システムを変えなきゃ」となって、実際に変わるまでには、タイムラインとしてかなり時間がかかってしまうのが現実ですね。

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