「日銀バズーカ」で歪みが増す日本株市場

「NT倍率」上昇の裏側には何があるのか

 8月12日、日銀の大規模なETF(上場投資信託)買いによって、日本の株式市場が歪み始めている。写真はスクリーンを見つめる男性、昨年8月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 12日 ロイター] - 日銀の大規模なETF(上場投資信託)買いによって、日本の株式市場が歪み始めている。市場の投機的な買いを巻き込み、日経平均とTOPIXの比率であるNT倍率が2000年以降の最高水準に上昇。一部の個別株も異様な買われ方をしている。

株価の下支え要因になったとしても、正しい価格形成ができなくなるおそれもある。円債市場に続き、株式市場も機能不全に陥るとの警戒感は強い。

「バズーカ砲」を彷彿

「日銀砲」──。日銀のETF買いは市場の一部で最近、そう呼ばれている。かつて日銀の量的・質的金融緩和は「バズーカ砲」と呼ばれたが、今のETF買いにも、同じようなインパクトがあると受け止められているからだ。

日銀は7月29日の金融政策決定会合で、ETFの購入規模をそれまでの年3.3兆円から6兆円にほぼ倍増させた。昨年、最も日本株を買ったのは事業法人(主に自社株買い)の約2.9兆円だったが、その2倍に相当する。1回当たりの購入額は707億円と、後場の売買代金が1兆円そこそこという最近の東証1部市場における存在感は小さくない。

実際、日銀は今月4日と10日に買い入れを行ったが、市場に与える影響は小さくなかった。4日は日経平均<.N225>が午前中に1万6000円を割れたが、後場にプラス転換し、終値は171円高まで上昇。10日も前場のマイナス圏から後場は一時プラス圏に浮上した。

日銀の買いだけで株価が浮上するわけではないが、巨大な存在の動きは周囲を巻き込みやすい。「今の市場参加者は日銀ばかりみてる。円債市場のようにマーケットとしての機能を低下させなければいいが」と、アストマックス投信投資顧問シニアファンドマネージャーの山田拓也氏は懸念する。

株式市場で「日銀トレード」も

一方、こうした変化をヘッジファンドなど短期筋は見逃さない。早速、日銀のETF買いを見越した「日銀トレード」といえるような動きが観測されている。

日銀がETF購入に動く基準は明らかになっていないが、これまで2回のケースでは前場のTOPIXがマイナスだった日に、買いが入っている。このため、「前場のTOPIXがマイナスだと思惑が昼から盛り上がり、先回りした買いが入る」(外資系証券トレーダー)という。

なかでも思惑が強まっているのがファーストリテイリング<9983.T>の株だ。TOPIXは時価総額型であるのに対し、日経平均は単純平均株価。日銀が日経平均型のETFを買う場合、その個別株ごとのウエートに応じて、株価が高い銘柄ほど多く買わなければならない。

ファーストリテ株の日経平均構成ウエートは約8%と突出して大きい。同社株には日銀から約2500億円の買いが入るとの試算もあり、「日銀の買いを見込んだ短期筋からの買いが強まっている」(国内証券ストラテジスト)との見方がもっぱらだ。

7月28日(日銀がETF倍増を決定する前日)から8月10日までに同社株は12.4%上昇した。その間の日経平均は1.56%の上昇。予想株価収益率(PER)は89倍とかなり高く、ファンダメンタルズ改善への期待だけでは説明しにくい動きだ。

魅力の乏しい市場に

日経平均とTOPIXの比率であるNT倍率<.NTIDX>が12.79倍と2000年以降の最高水準にまで上昇しているのは、短期筋によるこうした思惑買いが日経平均の一部銘柄に入っているため、との見方がもっぱらだ。ウエートが高く寄与度が大きい銘柄が買われる結果、日経平均はTOPIXより上昇しやすくなる。

NT倍率自体の上昇が問題になるわけではないが、為替市場とのかい離も目立ち始めてきた。7月28日以降、ドル/円は3円を超える円高が進んだが、日本株は逆行高。円高で日本株が下落すれば、日銀ETF買いが入り、日本株が上昇するという「円高・株高」の構図はファンダメンタルズからのかい離を生じかねない。

日経平均のPERは13倍台と米S&P500<.SPX>の17倍台などと比べ低い水準にある。割安ということもできるが、「4─6月期の段階では業績下方修正を行わない企業も多い。いまの円高下で13倍が安いとは言い切れない」と、JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏は話す。

日銀の買いを材料に、短期筋が株価を釣り上げていけば、その反動も大きくなりかねない。不安定な市場を嫌う長期投資家は日本株市場を避ける可能性がある。

今回、日銀の大量買いを材料に海外勢は動くのか。「外国人が買うには、たとえ間違っているかもしれなくても、ストーリーが必要。日銀のETF買いにはストーリーがない」とUBS証券のエグゼクティブディレクター、居林通氏は否定的だ。

日銀が買いに動くのは株価が下落した時だ。海外勢が買いに動かなければ、日本株の持続的な上昇は難しい。日銀の買いで下がらないかもしれないが、上がりもしないマーケット。果たして魅力的といえるだろうか。 

(伊賀大記 編集:石田仁志)

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