ホンハイが「シャープ抜き」で描く世界戦略 台湾のカリスマ、郭台銘が抱く野望

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サムスン電子への挑戦

これまで、ホンハイの経営戦略は、中国語で「代工」と呼ばれる受託生産だった。これは、上流である製品開発と、下流である販売には手を出さないことを意味し、商品を通して、あるいは販売店を通して、ホンハイは消費者と原則接点を持たない「黒子」「影の存在」に徹して今日の成功を収めたのである。

ホンハイが電子機器製造の「中流」において得意としたのは「製造マネジメント」とでも呼べる領域だ。ホンハイは、アップルなどから出される千変万化の大量オーダーに応えられる製造ラインをいつ何時でも用意でき、注文どおりの品質の製品を納期通りに納入することができる。

PCやスマートフォンがコモディティ化した結果、メーカーはまるでスターバックスが新メニューのような気軽さで新しいコンセプトの製品を打ち出してくる。その多種多様なオーダーに対応できる管理能力こそが、ほかの受託製造メーカーを上回るホンハイの強みであり、「ホンハイなくしてアップルなし」と言われるゆえんである。

しかし、今ホンハイはそんな自らの長所に安住することなく、自社ブランドのテレビを製造し、自社の流通網を構築しようとしている。

それにはいくつかの理由があるだろう。収益の4割を占めると言われるアップルの勢いにカゲりが見えてきたこと。強力な一貫製造体制を持つ韓国勢のサムスン電子などにどうしても収益面などで勝てないこと。そして、自殺騒動や労働争議などトラブルが多い中国工場の管理運営の難しさ、などだ。

その中で、先手を打って中国依存を減らし、自己ブランドを立ち上げて、流通もコントロール下に置くことで、受託製造一本やりの業態から、電子機器製造コングロマリットへと進化し、電子機器製造の上・中・下流の制圧にも乗り出す――そんなホンハイの長期戦略が、今、動き出していると見るべきだろう。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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