子供の可能性は「正解主義」では引き出せない 「信じて任せる」ことが生きる力につながる

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加藤:いつ頃のことでしょうか。

松田:高度経済成長期です。人的資源しかなかった戦後の日本が世界に対抗していくには、モノづくりで勝つ以外ありませんでした。暗記偏重の詰め込み型教育でマニュアルを覚えることで、大量生産大量消費の社会に順応できる人材を戦後教育は量産していったので。当時の製品が高品質で世界的に評価されたためにたった20~30年で世界トップレベルの経済大国となって今日の豊かさがあるわけですが、やはり時代は変わったのです。正解主義の戦後教育のいいところもしっかり認識しつつも、時代に合わせて適応していかなければなりません。

加藤:どのように変わっていけば?

松田:個性を尊重しながら、小さな成功体験とか、変わる経験を与えられる教育に変えていくことが大事だと私は考えています。正解主義の教育を受けてきている人たちは、自己効力感が育まれていません。「あなたは○、あなたは×、あなたは……」と十数年間言われ続けてくると、正解を言わなければダメなんだと思ってしまいますよね。

だから、チャレンジもしなくなるし、変わろうともしない。自分が変わった経験が大人に少なかったら、変われるんだという子どもの可能性を信じてあげられません。だから、小さな成功体験や変わるという体験を子どものころから積み重ねていくのが重要だと私はとらえているわけです。これも松野先生との原体験があるからかもしれません。

加藤:やはり松野先生との交流は松田さんに多大な影響があったのですね。

松田:そうですね。松野先生のおかげで、体育嫌いだった私が体育好きになって、人生変わったなと思っています。教育一般的に言えることですが、最初から英語嫌い・数学嫌いの子どもは絶対にいません。なぜ勉強嫌いな子どもが生まれるか。最初に向き合った大人や子どもを取り巻く環境のなかで、「わかった!」という成功体験ができたか、「全然わからない、つまらない」という苦手意識を持ってしまったかに尽きるのです。つまりは、子どもへの大人の向きあい方が重要であって、教えている人の指導力ではありません。

大人の向き合い方や環境で子どもは変わる

加藤:大人の向き合い方ですか?

松田:指導力ももちろん重要ですが、それ以上に重要なのは信頼関係を築いていく力です。同じ指導力の先生でも、好意的にとらえているのか、敵意を持ちながら聞いているのかで、学びのパフォーマンスは変わってきます。我々のフェローが支援している学年で、信頼関係の構築に成功したケースでは生徒の学力が県の平均を30ポイント(英語・100ポイント満点)近く上回る結果を出しているところもあります。学力は1つの指標でしかないですが、信頼関係の構築によって学級がかわり、子どもたちの学習意欲や学力が変化した1つの事例です。

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