”局アナ”から始まる「終身雇用崩壊」 『若者を殺すのは誰か?』を書いた城繁幸氏に聞く

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──終身雇用を前提とする新卒一括採用はなかなか崩れません。

終身雇用を前提とするならば、新卒一括採用は非常に合理的なシステムだからだ。その人をほぼ40年間雇用し続けるのだから、自分たちで教育するのがいちばん効率的なので、なるべく若い人を採る。自社で教育をするので、入社選考で大学の成績表は要求しない。ただ、5年や10年で転職することを前提とするならば、企業としては外部機関で教育をしてもらったほうがよくなる。そうなれば、逆に大学教育は充実する。大学がレジャーランドといわれるのは、大学教育が終身雇用の副産物に堕しているからだ。

江戸時代とのアナロジー

──雇用改革も一気にはいかないわけですね。

新卒の優秀層が安定型の大組織を必ずしも目指さなくなったので、企業も変わらざるをえない。3年以内の既卒者は全員新卒扱いにするというのも、その一つ。その3年間にめちゃくちゃ面白い経験をしてきてほしいということだ。秋入学・卒業の導入も新卒一括採用を崩す。

──「終身雇用崩し」に不安がることはない?

後々には笑い話になるだろう。幕末にも社会の変化に不安がっていた人はいたはず。幕末もまさに押し詰まった段階で、旗本の「株」を買って武士階級に逃げ込もうとした人もいたという。幕府が倒れたらどうなるかという不安からだ。実際には、その後にやってきた社会は、より自由で進歩的な社会であり、開国によって日本は江戸時代とは比較にならないぐらい豊かになった。

古いものが滅びるときは、新しいものに目を向けたほうがいい。確かに終身雇用はなくなりつつあるが、次にもっと新しくよいものが控えていると考えることだ。

若者を殺すのは誰か?』(扶桑社新書)

──若者への助言としては。

若者の身の処し方としては、今が低賃金だと嘆くより勉強して転職するのがいい。そうすればいくらでも賃金は上がる。会社は賃金を上げろ、政府は何をやっているのだと文句を言うのは、1980年代までのスタイルだ。社会システムの安定性が失われた90年以降は、それはナンセンスだ。

実際に賃金の高い会社はいくらでもある。それに自分で努力して跳び移る。個人でできるデフレ対策は、重ねて言うが、勉強して、より賃金の高いポストに転職をすることにつきる。古い社会システムが沈みつつあるときは、それが唯一の方法だ。

(聞き手・本誌:塚田紀史 撮影:今井康一=週刊東洋経済 2013年1月12日号

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