シェール革命で日本のLPG価格は下がるか 価格崩壊で余った米国産はどこへ

拡大
縮小

人口増加や経済成長背景に需要堅調なアジア

ではシェール由来のLPGはどこへ向かうのか?人口増加、経済成長を背景に需要が強いアジアへ向かうだろう。アジアの後進国では民生用に消費されるLPGは、政府主導で安価に維持されるケースが多く、LPG需要は堅調に推移する見込みだ。

また、中国での石化需要が注目を集めている。“PDH”プラントの建設ラッシュである。PDHとは、Propane Dehydrogenation(プロパン脱水素装置)の略であり、プロパン(化学式C3H8)から水素(H2)を抜いてプロピレン(C3H6)を精製する装置である。

プロピレンとはプラスチックや合成繊維の原料である。中国では需給がタイトであるプロピレンの調達手段としてPDH建設ラッシュが進んでおり、15年には原料であるLPG(プロパン)を年5百万トン追加で消費する見込みとなっている。

一方、アジアへの主要供給源である中東からは、それほど目立った増産計画はない。米国の増産はアジアの旺盛な需要が吸収するというのが大方の見方だ。

現在、メキシコ湾(ヒューストン沿岸部)で積んだLPGがアジアへ来るルートは、アフリカ大陸南端の喜望峰を経由するか、地中海からスエズ運河を経由するかの2ルートしかない。読者の中には、なぜパナマ運河経由太平洋を横断しないのかと疑問に思った方もいるのではないだろうか。

これは、大型LPG船はパナマ運河の運航可能サイズを上回っているため、通行できないからである。現在、パナマ運河の拡張工事が行われており、2015年には完了すると言われている。パナマが開通すれば、輸送日数・輸送コスト共に大幅に縮小できることから、米国産LPGがアジアへ向かいやすくなることは間違いないだろう。

流通のグローバル化で一物一価の時代へ

アジアの輸入量は、堅調な需要を背景に11年の年間約35百万トンから15年には50百万トンへ急激に拡大していく見込みだ。一方、CP価格をベースとする中東諸国からの供給は40百万トンを超えず、不足分は米国を始めとするCP価格の域外から流入することとなるだろう。

また米国からの輸出は20年には1千万トンを超え、UAE・カタールを抜き世界第1位になるとも言われている。全世界のLPG価格は米国MB価格を中心に値付けされる時代が来てもおかしくはない。

シェール由来の安価なLPGの大量流入は、生産者価格に支配されているアジア市場価格に影響を及ぼすのは必至だ。CP価格は安価なMB価格に向けて調整され、MB価格も米国内の余剰分を輸出に振り向けることで価格は上昇するだろう。

つまり、市場間格差が是正され、地域ごとの価格分離体制からより均一な価格、すなわち本当の意味でのグローバルな「一物一価」の時代がやってくるだろう。生産者価格に統治されたアジアのLPG価格が、需給を反映したマーケット価格へ移行する時代に移り行く幕開けと期待したい。

岩下 弘明 住友商事エネルギートレード部 LPGチーム サブリーダー

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岩下 弘明 / Hiroaki Iwashita  

1997年4月住友商事入社。現在はエネルギートレード部LPGチームにてトレード業務を担当。
入社時は外国為替部、続いて為替資金部にて計3年間勤務後、コモディティビジネス部に異動。貴金属(金・銀)トレーディング、燃料デリバティブビジネスを担当後、2006年10月よりシンガポールに駐在。当地において、アジアの地場企業との燃料ヘッジビジネスを開拓しながら、コモディティトレーディング会社(Sumitomo Corporation Global Commodities Ltd. Singapore Branch)の立ち上げにも貢献。12年4月に帰国し現職。

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