年収200~400万円の"新中間層"が生きる道 藤原和博(その5)

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――渡邉さんは、実家が築地のマグロ問屋ですけど、サラリーマン以外の道を、中学校卒業時点で選ぶことにリアリティはありますか。

渡邉:マグロ問屋は全然儲からないんですよ。回転ずしチェーンは仲卸を通さずに、直接、船ごと一船買いをしてしまう。規制緩和で、仲卸を通さなくてもよくなってから、会社はほとんど利益が出ない体制になってしまった。今は、銀座の高級すし店などに細々と取引している程度だから、僕は実家を継がなくてよかったんです。

うちの会社はまだましなほうですけど、築地のマグロ屋の7割は赤字だと言われていて、豊洲への移転が決まったら、ほとんどが廃業するはずです。

結局、職人の道を選んだとしても、構造改革で、産業構造が変わっていくわけじゃないですか。そうすると、親の仕事を継ごうと思って10代からそういう世界に入ってしまうと、20年後にはその仕事自体がなくなってしまって、修行の1万時間が無駄になってしまう可能性は十分あるんですよ。そういうキャリアショックみたいなものは、たぶんどこの世界でもあると思う。

藤原:確かにそうですね。

渡邉:だから、「自分の仕事を中学生のときに決めろ」というのは結構酷な気がします。子どもには、その判断能力がないですから。

藤原:やっぱり頭を軟らかくして、仕事を乗り換えていく発想が必要になる。「どの仕事が正解なの」という感じで、選ばせてしまったらダメだよね。

渡邉:そうですね。うちの親父は、マグロのセリ人として大成功したわけですが、それは時代がよかったからですよ。

藤原:間に合ったのね。

渡邉:間に合ったんですよ。運がよかったんです。だからもし、もうちょっと早く構造改革が来ていたら、たとえば僕が大学生のときに来ていたら、僕は大学を辞めないといけなかったかもしれない。だから、あの世界は運ですよね。

藤原:それを言ったら、ボクだってリクルートに入ったのは運だしね。

渡邉:だから柔軟性と運が大事。

藤原:運と勘は絶対いる。でも柔軟性というか、頭の軟らかさも絶対いると思う。これだけ変化が激しい時代だから。

20年前には、水をおカネを出してペットボトルから飲む時代になるとは、誰も考えなかったと思うんですよ。 日本は、水がおいしくて、水道の水と安全はタダだと思っていたわけだから。それが今では、水も安全もどちらもすごく高いものになってしまった。同じように、iPhoneなんてものは誰も想像できなかった。これだけ多くの機能が、この薄さに詰まってしまうなんて。

それぐらい変化の激しい時代だから、ものすごくチャンスがある一方で、「これをやっていれば安全だ」というものがない。ということは結局、頭を軟らかくする以外に王道はないんです。

(撮影:梅谷秀司)

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