「リンガー」「ハチバン」統合交渉決裂の真相 ちゃんぽんとラーメン、どこで溝が生じたか

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提携発表後すぐに、両社のプロジェクトチームが動き出す。だが、当初はお互いに牽制しあい、話がなかなか通じなかった。それもそのはず。売上高や時価総額で5倍の規模を持つリンガーを前に、ハチバンには「統合すれば呑み込まれる」との不安心理が拭えなかっただろう。そんな中、統合交渉の成果と呼べる施策がようやく日の目を見たのは、1年2カ月後の2015年4月。リンガーの北陸出店を機に始まった、食材物流の相互活用だった。

これは、ハチバンの名古屋地域にある店舗へ食材を運ぶトラックの復路便に、リンガーの食材を積んで北陸地域の店舗に配送するもの。そのほか2016年には、リンガーのインターネット販売にハチバン商品もメニューに加わるなど、徐々に成果は表れた。が、肝心の海外進出での協力や、調達資材共通化に伴うコストダウン、生産技術の相互活用などでは、大きな果実が得られないでいた。

直営とFC、経営スタイルの違い

ハチバンは北陸新幹線の開通効果もあり、今期は最高益更新見通しだ(写真は同社のHPより)

「2年前に想定した統合シナジー、1+1が3とか4になる、という状況には至らなかった。コスト効率化の成果もゼロではないが、その効果は小さかった」と、ハチバン幹部は振り返る。

経営統合に前のめりだったリンガー側も、2015年10月頃には「結婚(経営統合)できるかは微妙」(リンガー幹部)な空気を察知し、その後は、現状の提携関係を(3月以降も)継続する道も模索してきたという。が、両社から交渉継続の声は盛り上がらず、2016年3月のデッドラインに至った。

なぜ、シナジーを発揮できなかったのか。理由の一つには、経営スタイルの違いが背景にある。リンガーは直営方式のチェーン展開が主軸だが、一方のハチバンはフランチャイズチェーン(FC)が核。経営方針も、リンガーは上意下達で一気通貫に末端店舗に流れるが、ハチバンはあくまでも本部と加盟店の合意で進む形だ。このため「具体的な共通化の話になると、ほとんど前に進まない」(リンガー幹部)のが実情だった。

例えば、原材料のキャベツを両社で共通化したくても、ハチバンは加盟店によって異なる野菜の切り方を合わせることから進めないといけない。本部の意向を加盟店に通すには、一定の時間と妥協を覚悟しなくてはならなかった。両社の意志決定後の流れに時間差が発生することもあり、結局、統合後の事業メリットを交渉期間中にイメージできなかった。

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