「商売下手な人」が理解していない欲望の本質 ヒット商品は理屈で生まれるものじゃない

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常見:とても可愛い女性の講師とどうしてもオンライン英会話したいというのは、「不の解消」でもあり、「快の追求」でもあるような気がするんですよね。

高橋:そうです。たまたまかわいい女性が採用されたのか、狙ったのかの真実はわからないですけど、これは「快の追求」による「不の解消」です。僕もそういうことを仕掛けようとして散々失敗してきたんですよ。英語を覚えるためにゲームしようといっても、子供たちは勉強なんてやりたくない。だからやっているうちに、「あれ?これ覚えちゃったぞ!」「いけるじゃん」みたいなことが大事なんじゃないかと。

常見:「◯◯を通じて楽しく学んじゃおう」っていうのは、親に対する言い訳でしかなくて、子供にとってはどうでもいいという。

「買っている理由」の本音が、人にはある

高橋:たとえば「不の解消」で、これを解決するアプリを作りたいというお仕事をご依頼されても、「面白くて遊びたい」から広まるソリューションを作りたいという思惑は出てしまいますね。

石川:今、実際に売れているモノにも「一般的にいわれる売れている理由」と、もう少し根っこの「だけど本音で買っている理由」があると思うんですよね。

高橋常見:ある!

石川:そこに、「不の解消」と「快の追求」の接点があるような気がしていて、例えばリクルートが得意の情報サイトって、頭で考えると、「より安いもの」とか「より自分に合ったものが欲しいから」とか、「コストをかけてよりよい情報を探すんだ」というのが、使われている理由だと思うんですね。だけど本音の本音で言うと、納得感がほしいんですよね。「俺はあれだけ調べてこれにしたんだから、この選択肢は間違いないに違いない」と思える気持ちが、実はいちばんの価値で、それが「不の解消」なのか「快の追求」なのか結構微妙なラインだったりするんじゃないかと。

高橋:本当にその通りです。僕は「快の追求」ビジネスをずっと考えていて、ある時に思ったのが、おカネを払うことこそ、快楽なんだと。人はいろんなことに、気持ちよくおカネを払っている。「俺はこれを買っちまったぜ」と自慢に思うとか、映画に行って彼女の分も払ったときなんかはうれしいじゃないですか。定額制配信でも、「こんなに聞けてこんなに安いのか」みたいなお得感の中で、ある意味引き落としがうれしいと思っているんです。

常見:気持ちいい騙され方。ビジネスサイトで連載持っていてなんですが、ビジネス雑誌が語るようなかっこいい成功理由は信じるなということなんですよね。「この能年玲奈ちゃんの笑顔がM1層をとらえた」みたいな話は信じてはいけなくて、そこはもっと根本的な欲求に立ち返っていったほうがいい。

石川:素直に自分が当事者になって考えると、「実はそこが理由ではないんじゃないか?」ということが結構あります。たとえば「宴会での飲み放題付きコースはコストパフォーマンスがいいから好まれている」という話は違うと思うんです。あれは幹事にも参加者にも都合がいいんですよね。「自分だけたくさん飲むのは申し訳ない」という気兼ねがなくなって、会計もやりやすい。それが価値だと思うんですよね。

常見:真の決裁権者が誰か、という話はすごく大事です。私は最近、車を買い換えたのですが、決裁権を持っているのは妻であって、性能を語ってもOKは取れないんですね。安全性や経済性、さらにはかわいいかとどうかとか、自分とは違う判断基準があります。売れる本と売れない本の違いは、書店員が売りやすいかどうかが意外に大事な場合もある。

石川:「サッポロ一番味噌ラーメン」はロングセラーの大ヒット商品ですが、なぜ売れ続けているかは、マーケティングの4Pである製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)では説明がつかないんですね。

ほかにもおいしいラーメンはいっぱいあるのに、価格も競合品と大差がなくてもヒットし続けるのは、バイヤーにとって「失敗がない」ことが大きい。大手スーパーのエリートコースって、生鮮売り場なんですね。仕入れも難しいし、在庫を残せないから、技量の差が出て難易度がいちばん高いんですね。

一方、技量の差が出にくいのは、インスタントラーメン売り場なんです。需要が大体一定していて、力の発揮のしようがないというか。そうなるとインスタントラーメン売り場でキャリアを終わりたくない、できれば自分いつか生鮮売り場で一旗揚げたいという気持ちになるわけですよ。

そうするとインスタントラーメン売り場で失敗はできなくなる。「地方のあるメーカーがものすごい面白いインスタントラーメンをやっていまして、全種類を揃えたいんです!」というリスクは取らないんですね。

常見:そうでしょうね。

石川:やっぱりサッポロ一番味噌ラーメンをちゃんと並べておいて、それなりに売れて時期がくれば異動になるほうがいいわけですよ。それは売る人にとっての「不の解消」ですよね。

高橋:面白いですね。

常見:時間がやってきましたので、このあたりで。ありがとうございました!

2回に渡りお届けしたシリーズ、お役に立てただろうか。超プロたちが語る発想術は、すぐにでも使えるヒントがいっぱいだ。
もっと知りたいあなたは石川さん高橋さんの本をチェックだ。サラリーマンの醍醐味を知りたい人は私の『僕たちはガンダムのジムである』(日経ビジネス人文庫)をよろしく!

 

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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