今も日本株を売り続ける海外投資家の視点 彼らの「投資アイデア」はどう変わってきたか

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1月7日の記事でも重要な点として申し上げましたように、2015年9月の時点ではすでに、長期的に腰の据わった資金を扱っている投資家ほど、世界の株式市場の先行きを慎重に見ている向きが多かったという現実があります。昨年7月の段階では早くも、ウォール街の早耳筋の銀行投資家はこれ以上の米国株の上昇は望めないと考えていましたし、8月のチャイナ・ショック以降は米国株だけでなく、日本株や欧州株の上昇余地も乏しいと考える欧米投資家が増えていったのです。すなわち、長期的な視点に立つ投資家ほど、中国リスクがいつ蒸し返されてもおかしくないと、強く警戒するようになっていたわけです。

さらには、株式を売るべき投資アイデアとして、2015年中にはFRBが9年ぶりに利上げをするというイベントが控えておりました。欧米の長期投資家が新規に株式を買う流れにはまったくない状況であったというわけです。彼らにとって合理的な戦略変更は、GPIFの買い需要が旺盛なうちに、売りをぶつけて利益を確定するということでした。その結果として、彼らは2015年9月頃から日本株を売り越すようになり、株価がある程度戻す過程でも売り越し基調を続けていたのです。

アベノミクスへの評価と大きな懸念材料

そもそも欧米の経済メディアでは昨年の秋頃から、「日本のアベノミクスは失敗だった」という論調が増え始めてきていました。円安に伴う企業収益の向上と株価の上昇にしか成果が見出せず、GDP成長率は民主党政権時代の半分にも満たないばかりか、個人消費は東日本大震災の翌月の水準に落ち込んだままであったからです。そういった論調が強まるなかで、アベノミクスの理論的支柱であったポール・クルーグマンまでもが「日銀の量的緩和は失敗するかもしれない」と弱音を言い始めていたのです。

そういった欧米の経済メディアの報道が、中国リスクや米国の利上げといったネガティブな投資アイデアに含めて、海外投資家の日本株への慎重姿勢を強める根拠のひとつとなっていたともいえるでしょう。

私はそういった欧米の長期投資家の視点をはっきりと認識していましたので、2015年末から2016年初めにかけて、多くの証券各社の楽観的な株価予想には大きな違和感を覚えただけでなく、どういった思考回路でそのような株価予想になるのかさっぱり理解することができませんでした。2016年はわずか2か月足らずで、信用取引で大怪我を負った個人投資家が多いと聞いておりますし、底値に近い局面で処分売りを迫られた向きも少なくないとも聞いております。市場の歴史が示しているように、現実を無視した楽観的な予想が蔓延する時こそ、このように投資家の損失リスクが高まってしまうものなのです。

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