産油国バブル崩壊は通貨危機の連鎖に繋がる アジア通貨危機を超える危機になる可能性

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高井裕之(たかい ひろゆき)/2013年6月から現職、住友商事執行役員。1980年に神戸大学経営学部を卒業、住友商事株式会社入社。7年間のロンドン駐在を含み非鉄金属本部で17年間、貴金属や銅やアルミなどベースメタル取引を担当する。その後、金融事業本部とエネルギー本部でキャリアを積み、それぞれ本部長の要職を歴任する。現在は総合商社のリサーチ機関トップとして市場や産業などの経済分析、国内外の政治情勢などの情報調査・分析を担当する。日本経済新聞のコラムや金融経済誌等に執筆するとともに、国内外の商品取引所にも関与する。 大学や国際的なカンファレンスなどで講演する機会も多い(撮影:梅谷秀司)

一方、多くのエコノミストが見誤ったことは、需要側の先進国へのプラスの効果が期待したほど大きくなかったことだ。米国は原油価格が1バレル=30ドルになれば一家計当たり年間1200ドルの節約が可能だ。これが個人消費に回ればGDP(国内総生産)はもっと増加するはずだが、ほとんどが貯蓄に回っているのが実態だ。

世界中で同じことが起きている。貯蓄に回ってしまい、期待したほどに油価が下がったことによるプラス効果はなかった。具体例を挙げれば、日本でガソリンが1リットル=100円を割ったからといって、遊びに行こう、買い物しようという風になるかといえば、ならないだろう。

30ドルの油価が定着すれば、企業の収益などに効いてくるのは確かだが、それには時間がかかる。金融市場では水位が下がれば資産価格は一気に崩れる。今、マネーの流れが逆回転してきたことは、実体経済に与えるプラスよりも大きなマイナスを生んでいる。

産油国・資源国は財務急悪化、ペッグ離脱も

リーマンショックを乗り越えてなんとかここまで来たが、先進国がなんとか立ち直った一方、新興国の痛みは深刻だ。

新興国・資源国では企業イコール国という場合が多いので、国家も傷んでいる。産油国・資源国の財政は急悪化しており、外貨準備も減って、信用格付も一斉に引き下げられている。

サウジアラビアはOPECのリーダーで米国ともがっちり組んでいて、基盤が強く、格付けも高かった。しかし、国家財政が必要とする油価は、1バレル=80~90ドル。

これまでアブドラ前国王が合議制ですべてを決める王制国家だったが、2015年1月に90歳でなくなり、弟で80歳のサルマン国王にバトンタッチした。王子が1000人、王族が2万人いるが、参政権を持たず、その不満を抑え込むために地中から湧いてきたおカネを与えていた。これを続けて、歳出はどんどん膨らんでいった。電気、ガス、水道もタダ(無料)で税金もなし。この体制を1バレル=100ドルで保っていた。原油価格の急落で財政が大赤字になっている。

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