「なぜマイナス金利か」日銀は説明していない 水野温氏・元日本銀行審議委員に聞く

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また、表向きはいわないが、追加の緩和を行った狙いは円高圧力を緩和して、株価を押し上げることだろう。しかし、どの国も自国通貨を安くしたい中、マイナス金利政策の導入後、むしろ円高が進行した。原油価格や為替を安定させるためには、グローバルな政策協調が必要だ。また、株価の上昇を維持するには、日本が成長していくという評価がなければならないので、政府が財政の健全化や成長戦略を協調して打ちだしていく必要がある。しかし、最近は、黒田総裁も政府に対してそのような要求を言わなくなっている。

結局は、市場の要求に応じた「政策の逐次投入」に

今回の「マイナス金利付き量的質的金融緩和」の導入は、「サプライズ」効果があり、確かに、一瞬円安と株高を実現した。しかし、物価目標への波及経路が明確ではないので、市場からは、そうした効果を狙ったものということを読まれてしまい、円安株高も長続きしなかった。

そもそも、中国発の世界同時株安に対し、日本銀行の金融緩和だけで歯止めをかけることは困難である。

たしかに、マイナス金利政策の導入で、マイナス10ベーシスをマイナス20ベーシスに、さらにマイナス30ベーシスに、という政策の余地はできたが、今後、円高が進んだり、株価が下がったりするたびに、日銀が追加緩和をせざるを得なくなる。そういう意味では、ここから先、黒田総裁がもっとも言われたくないことだとは思うが、「政策の逐次投入」にならざるをえないだろう。

金融機関からの批判は強い。政策委員会は今回、賛成5、反対4という結果で、マイナス金利導入を決定している。一部のボードメンバーが、サプライズ、かつ、その効果に懐疑的なマイナス金利政策を、金融市場がサプライズと受け止めるのは不思議でない。もし、ボードメンバーの間で十分な時間をかけて検討や議論があれば、金融機関もシステム対応を含め、もう少し好意的に受け止めただろう。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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