「なぜマイナス金利か」日銀は説明していない 水野温氏・元日本銀行審議委員に聞く

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みずの・あつし●エコノミスト、専門は債券市場。1984 年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。ブラウン大学経済学修士号、ニューヨーク市立大学経済学博士号取得。野村證券、ドイチェ・モルガン・グレンフェル証券(現ドイツ証券)、クレディスイスファーストボストン証券(現クレディ・スイス証券)を経て2004 年12月~09年12月まで 日本銀行政策委員会審議委員(民間エコノミストで初)。2010年1月~ クレディ・スイス証券取締役副会長(撮影:梅谷秀司)

マイナス金利の導入で、QQEのオペレーションはより難しくなる。日銀はこれまで、まだまだ国債を買えます、マネタリーベースを増やせますといい続けてきた。QQE限界論に反発して、「追加緩和は可能」として、マイナス金利政策を導入した。

しかし、今回、年間80兆円のマネタリーベースを積むという金融調節方針は変えずに、量と質と(マイナス)金利で緩和を続けますといっている。国債入札の安定性の低下は必ず起きてくる。前述のように、金融機関がオペに応じなくなる可能性がある。

欧州でもマイナス金利政策を採用しているじゃないか、という主張はあるが、欧州でも金融機関の経営が苦しくなっている。バランスシートがどんどん縮小していっている。

欧州の中央銀行の場合はそもそも金利ターゲット下で金利を引下げ、後から量的緩和を行っている。中央銀行のバランスシートの規模の名目GDP比で見れば、FRB(米国連邦準備制度理事会)とECB(欧州中央銀行)は25%程度に対し、日本銀行は70%程度に拡大しており、資産買い入れは難しくなってくる。入札というやり方を止めて、ECBのように金融機関が売りたい銘柄を買うという方法に国債買い入れの手法を変えるかもしれない。

量的質的金融緩和の検証がない

日銀は最近、マネタリーベースを積むことの効果についてはあまり話題にしなくなっており、もっぱら2%のインフレ目標の達成をコミットすることにより「インフレ期待に働きかける」効果を主張している。ただ、2年経っても3年経ってもいずれも効果が出ていない。

マネタリーベースターゲットを残したまま、マイナス金利政策を導入したが、おそらく、なし崩し的に"金利ターゲット"に戻っていくだろう。であれば、「フレームワークの変更です、金利ターゲット政策に戻します」といったほうがいい。ただ、量的質的緩和について検証もしないまま次のステップに行くのは問題がある。「QQEではおカネが十分に回らなかったのに、マイナス金利にすれば、回るんですか」という疑問が湧くが、それについて日銀は説明を一切していない。

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