そんなとき、東大を志望する高校3年生が入塾してきた。
それまでの教室では、高校受験の指導が中心だったが、ほかの講師と協力して指導体制を整え、青戸さんも英語の過去問分析や添削などを担当した。しかし、その生徒の東大進学はかなわず、別の大学へ進むことになった。
生徒も保護者も感謝してくれた。進学後も教室に遊びに来て、長期休暇にはアルバイト講師として助けてくれたこともあった。関係が悪くなったわけではない。むしろ、感謝されたからこそ、自分の指導は十分だったのかという思いが残った。
「自分が責任者として自信を持って主体的に関われなかったことが、非常に心残りだったんです」
大学受験の経験がないため、教材選びや学習計画について、踏み込んだ助言ができなかった。聞きかじりの知識で生徒を混乱させてはいけないと思い、ほかの講師に任せた部分もあった。
本人によれば、受験への思いは、その一件だけで突然生まれたわけではない。教えるなかで、自分も勉強しなければという気持ちが少しずつ積もっていた。その生徒との出会いが、決断を後押しした。
30歳で正社員を辞め、東大受験を決意
30歳で正社員を辞め、同じ教室でアルバイト講師として働きながら、東大を目指すことにした。生徒のためという理由だけではなかった。本気で勉強したら、自分はどこまで行けるのか。大学では、どんな授業が行われているのか。知らない世界への好奇心もあった。
当初は、1年で合格するつもりだったという。受験を決めると、携帯電話を解約し、車も売った。費用を抑えるとともに、自分を勉強へ向かわせるためでもあったという。
だが、生活を変えても、毎日机に向かえるようになるわけではない。
生徒に教えるための予習なら取り組める。しかし、自分のための勉強は、やらなくても自分が困るだけだ。そこで、最初は数学の簡単な計算を、ごく短い時間だけ解くことにした。本人の回想では、1日1問から始めたという。もっとできそうでも、そこで終わりにする。


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