ある時期から、岡田さんは講義に出られなくなった。
朝起きても体が重い。理由がわからないのに涙が出る。課題は積み上がっていくのに、手が動かない。気づくと、一日が終わっている。
本人の感覚では、「サボっている」のではなく、「体が動かない」のだという。
以前は大量の宿題に取り組み、テストを楽しみにしていた。その本人が、目の前の課題に取りかかれなくなる。外から見える行動の変化だけでは、何が起きていたのかはわからない。少なくとも、彼が語る苦しさを、やる気の問題だけで説明することはできない。
その後、岡田さんは就職し、1年間働いた。だが、職場でも人間関係のトラブルがあり、うまくいかなかったという。医療機関では、うつ病と診断された。
合格後に目標を見失ったことと、その後の心身の不調を、一つの原因と結果として結びつけることはできない。ただ彼の語りには、かつて夢中になれた勉強と、大学以降の生活との間に、本人も戸惑うほどの変化がある。
現在も、働けている時期はあるという。その一方で、職場に迷惑をかけていると感じ、申し訳なく思っている。
難関校に合格した実績があっても、いま目の前にある困難が簡単になるわけではない。かつての成績だけで、その人の現在の状態や、できることを判断することはできないのだと思う。
もう受験しないのに、いまも問題集を開いてしまう
岡田さんのいまを象徴するのは、休日の過ごし方だ。
「休日、気づくと大学受験の問題を解いちゃうんですよね。もう受験しないのに」
受験の問題集を開くと、理由はよくわからないけれど落ち着くのだという。
そこには取り組むべき問題があり、正解がある。何を考えればよいかが示されていて、解けたかどうかも確かめられる。かつて親しんだ勉強の形が、いまも彼にとって落ち着ける時間をつくっている。毎年東大受験の問題は当日すぐに解き、ネット上に張り付いて各予備校の解答速報を楽しみにしているそうだ。東大受験からもう何年も離れているにもかかわらず、である。
岡田さんは、自分についてこう語る。
「自分は頭は良かったんだと思います。でもそれは、勉強ができたって意味じゃなくて、受験ができたって意味なんだと思う」
受験というゲームをクリアするのが得意だっただけで、勉強や学問が得意なわけではなかった、ということだ。


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