清野:「生活保護の進学」の話題となると、「国公立大学に入学できる能力のある学生だけを支援すればよい」という意見を持つ人もいますよね。しかし、生活保護世帯の子どもたちの場合は、大学受験の前段階である「勉強できる環境」にハンデを抱えていることが多いので、まずはそこを支援する必要があります。
推薦入試が浮き彫りにする「体験格差」の壁
清野:現在、日本の大学入試ではペーパーテストだけでなく、面接や経歴書を見る「総合型選抜」が増えています。
これで入試の多様性が増すのは良いことかもしれませんが、貧困世帯で育った子どもの場合、「体験格差」という教育格差以上に大きな壁が存在します。これについてはブレイディさんも問題意識を持たれているのではないでしょうか。
ブレイディ:昔の日本の受験制度なら、どんな家庭で育ってもペーパーテストで点数さえ取れれば、良い学校、良い大学に入れたでしょう。しかし、推薦入学で留学経験などを問うというのは、ある意味で「バックグラウンドチェック」をしているようなものです。
入試の手法の多様性は広がっても、そこで選んでいる子どもの多様性は広がっているのか?と考えると、結果的には同じようなバックグラウンドや文化資本を持つ子ばかりを集める矛盾が生まれているような気がします。
清野:本書にも書いたのですが、東大の推薦入試に応募しようとした際に「留学経験など、志願者が異なる文化的背景や価値観への理解を有することを示す書類」を提出できず、不足した状態で提出し、書類審査落ちとなってしまったことがありました。
ブレイディ:本当は東大のようなトップレベルの大学こそ、推薦入試でもっと多様なバックグラウンドを持った子を受け入れるべきですよね。たった1~2カ月留学したところで、本当にその国のことがわかるわけでもないのに。私なんか30年住んでいても、わからないことだらけですから。
貧しい家庭で育った子やヤングケアラー、地方で育った子など、様々な経験を持つ子どもを入れることが、本当の多様性です。私たちはジェンダーや国籍といった「横の多様性」は気にしますが、階級や貧富といった「縦の多様性」は忘れられがちです。この「縦の多様性」が交ざっていかないと、多様な社会問題を語り合える大学にはなりません。
昨今、政治や世界情勢において反エリート意識が高まり、ポピュリズムを生み出しているのも、結局のところ本当にエリートしか行かないような大学には、多様な階層の人々が集まらなくなっていて、社会を動かす立場の人々が、自分以外の階層の人々の経験や心情をまったく想像できなくなっているからだと思います。


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