実はこれは、心理学で「ナイーブ・リアリズム(素朴実在論)」と呼ばれる現象に近い(※1)。人は自分の知覚を「加工なしの現実そのもの」だと錯覚しやすく、同じものを見て違う解釈をする相手を「見え方が違う人」ではなく「事実を歪めている人」だと感じてしまう。
ファン同士の対立がこれほど感情的になった背景には、この「自分こそが素直に見ている」という思い込みの応酬があったと考えられる。
重岡の“笑顔”の真意はともかく、この騒動が示すのは、表情そのものに「正しい読み方」が1つしかないという思い込みが崩れる瞬間があるということだ。
表情は「顔そのもの」ではなく「文脈」で読まれる
古くは1910〜20年代、旧ソ連の映画監督レフ・クレショフが行った実験がある。
同じ無表情の俳優の映像の後に、「スープの皿」「棺の中の少女」「くつろぐ女性」という異なる映像を続けて見せたところ、観客はそれぞれ「空腹」「悲しみ」「欲望」と、まったく異なる感情をその無表情から読み取った(※2)。
表情そのものは変わらないのに、前後の文脈だけで意味が変わってしまう現象は、後に「クレショフ効果」と呼ばれるようになった。
同様の現象は現代の心理学実験でも確認されている。同一の表情写真に異なる背景情報を添えるだけで、被験者が読み取る感情がまったく変わってしまうことを示した研究もある(※3)。


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